この日本にも深く影を落とす財政健全化。「財政均衡主義とは税収の範囲内で財政支出しなければならない」という理念。
私たちの家計に対する考え方と同じで理解しやすく、政界や財界、学会をはじめ一般国民にまで深く浸透している考え方だ。
しかし国家財政として見た場合、特に自国通貨を持つ国の財政にとって財政均衡主義は誤っているどころか、大きな弊害をもたらす政策である。この財政健全化とは、いつ誰がはじめたものなのか。
IMFと日本
財政健全化のために税金を回収し市中から貨幣が減っていけば、賃金は下がり庶民の使えるお金が減り貧困化が加速する。
この財政健全化を知るためにIMF(国際通貨基金)と日本の関係について見ていく。
1952年
日本は53番目のIMF加盟国になった。
日本国内では財政法が改正され、IMF(国際通貨基金)とIBRD(国際復興開発銀行)への加盟にともなう法律が施行された。
その後、日本経済が勃興していく中で為替の自由化が求められていくようになった。
1964年
日本は国際収支の赤字を理由に為替制限できる14条国から、それが出来ない8条国に移行した。
1965年
日本政府はIMFに810億円、IBRDに383億7600万円を追加出資すると、この負担金の拠出を理由に戦後初めての国際発行がおこなわれた。
当時の首相は佐藤栄作、日銀頭取は宇佐美洵だった。
1970年
日本はIMFへの出資が増えていくにつれ、任命理事を選出できるようになった。
2006年
小寺清氏が日本人初の世界銀行とIMF合同開発委員会の事務局長となり、2010年までその職にあった。
2018年
日本はIMFへの第2位の出資国であり、単独で理事を選出している。
総務(Governor)は財務大臣が、総務代理(Alternate)は日銀総裁が担当。
2021年
2021年12月、元財務官僚の岡村健司氏が副専務理事(4人のうちの1人として)に着任した。
1997年以降は5代連続で日本人から副専務理事が選出されている。
2017年1月の段階でIMFにおける日本人職員の数は59名で全体の2.2%だった。
IMFへの批判
IMFの融資は対象国に緊縮財政や構造改革などの厳しい貸出条件を提示する。
しかも、その条件はその国の経済成長を目的としておらず、むしろ財政健全化のために国内の景気を冷ますことを目的としている。
一方的な政策を押し付けることで、対象国の経済状況が悪化することもあり、しばしば批判の的となっている。
IMFの財源
2012年4月20日、G20(二十カ国/地域・財務相・中央銀行総裁会議)は次のことを合意した。
IMF(国際通貨基金)の資金基盤を4300億ドル(約35兆円)超増強する
IMFの資金基盤とは、IMFが「危機に陥った国に融資するための資金」のこと。ある国が経済危機に陥った場合、加盟国はそれぞれの枠内でIMFに融資する。
IMFはそれをまとめて危機に苦しむ国に貸し付ける。昔の日本でいえば「講」といった相互扶助的な団体のようなもの。つまり皆がカネを出しあい、困ったところに回すというものだ。
欧州経済危機とセーフティネット
このような取り決めをおこなった目的は「欧州債務危機を封じこめるためにセーフティネットを用意する」ことだった。
だが結論を言えばIMFに4,300億ドルのカネがあっても、欧州経済危機は解決しない。この処置はただの応急処置だ。
そもそも、このような動きはG20各国が諸手を上げて賛成したものですらないというのが現実だ。各国の思惑を新聞は次のように書いている。
「日米や中国、ドイツなどG20諸国間の相互不信と国際金融秩序を巡る打算は根深い。薄氷の合意は世界経済と金融市場の安定がなお道半ばにあることを映した」
「日本経済新聞2012年4月22日」
IMFと安住財務大臣
この合意で日本は「600億ドル(4.8兆円)」を融資することになっていた。日本にとっては莫大なカネである。
このような事は今もなお続いているのだが、国民から「そんな余分なカネがあるなら消費税増税はやめろ」という声があがるのも当然のことである。
当時、G20における安住財務大臣(元民主党・立憲民主党)の様子を新聞は次のように書いている。
「『新興国も参加し、大きなまとまりができた。大きな貢献を果たせたと思っている』と安住淳財務相は(四月)二十日、ワシントンのホテルで興奮気味に語った」
「朝日新聞2013年4月22日」
「日本は大きな貢献を果たせた」という認識は完全に間違っている。そもそも、この問題は貢献するとかしないとかいう自己満足の問題ではない。
当日の動きはこうだった。
日本はG20開催前にIMFへの600億ドル(4.8兆円)融資を表明
↓
ブラジルなど新興国は消極的だったが北欧などが雪崩を打つように融資を決定
↓
G20は閉幕直前に駆けこみでIMFへの融資を約束
このとき、日本の財務大臣はIMFのトップであるラガルド専務理事に「よくやった」と褒められ興奮したという。その結末を新聞は次のように書いている。
「積み上がった額はIMFが想定していた四千億ドルを上回る四三〇〇億ドル(三五兆円)。『日本が先導した』。IMFトップのラガルド専務理事も称賛した」
「朝日新聞2013年4月22日」
「財政健全化」を命じるIMFC
IMF(国際通貨基金)はグローバリストが操る道具のひとつだ。そこには奥の院ともいうべきIMFC(国際通貨金融委員会)が存在する。司令本部と実行部隊という関係だ。
国際通貨に関する命令系統:司令本部IMFC → 実行部隊IMF
もちろんその背後にはグローバリストの親玉が存在する。そのような構造の中で、司令本部のIMFCはIMFの会議が終わると同時に「新たな命令」を発した。
「国際通貨基金(IMF)の諮問機関である国際通貨金融委員会(IMFC)は(四月)二十一日、すべての先進国に具体的な財政健全化策をまとめるよう求める共同宜言を採択した」
「朝日新聞2012年4月23日」
司令本部のIMFCは先進国に「財政健全化」を命じる。なぜ彼らにそのような権力があるのか。それはグローバリストが国家を超える権力を構築し、動かしているからだ。
「IMFCはIMFの加盟国の財務相や中央銀行総裁で構成し、IMFに勧告する組織。声明では、世界経済について『成長の見通しは依然として緩やかで、リスクは高止まりしている』と指摘。先進国の債務問題が世界経済のリスクにならないよう、「実効的で中期的な財政健全化策が策定されるべきだ」とした。先進国の金融政策については「弱い成長が続く限り、引きつづき緩和的であることが必要」との認識を示した」
「朝日新聞2012年4月23日」
IMFCに関する新聞の説明は間違いではないが正確でもない。グローバリストはIMFCを使って先進国に指示を出す。表に出てくるのは操り人形だけだ。
あとがき
2012年4月21日、IMFの奥の院(IMFC)は世界に向けて絶対命令を発した。それは「財政引き締め」と「金融緩和」だ。
財政健全化の名の下に「緊縮財政」で国民生活を徹底的に縛りあげ、同時に「金融緩和」で自分たちは世界経済をコントロールする。
日本の財務大臣も基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化すると一方的に約束させられている立場だった。
「日本からは安住淳財務相と、日本銀行の白川方明総裁が出席。安住氏は『基礎的財政収支を二〇二〇年度に黒子化する目標を達成する』と約束した」
「朝日新聞2012年4月23日」