不思議な話

ザイム真理教と緊縮財政に囚われた宰相たち

新自由主義に汚染されてしまった者たちは「この国が衰退したのは怠け者が増えたからだ」とか、一部の成功者を例に挙げ「ちゃんと努力して成功している人もいるんだから、お前の努力が足りないだけだ」などと力説する。

だが、この国の30年におよぶ不況からの衰退は国民の怠慢が原因ではない。それは経済政策の失敗であり、政治の問題である。そして、そのおもな原因の1つが「消費税」であることは紛れもない事実である。

景気が悪い時に増税する国家は世界でも日本だけ。経済アナリストである森永卓郎さんの著書『ザイム真理教』を参考に緊縮財政に囚われてきた宰相たちの姿を見ていく。

ザイム真理教に入信する政治家たち

立憲民主党の枝野幸男・前代表は、2022年11月の講演で「2021年の衆院選・2022年の参院選」で消費税減税を訴えたことについて「政治的に間違いだった・見直すべきだと思っている」と発言している。

この発言にガッカリした支持者もいることだろう。彼の言う「有権者」とはいったい誰のことなのだろうか。緊縮財政派の夜明けは遠い。

「社会保障の充実にお金をかけると言いながら、時限的とはいえ減税と言ったら、聞いている方はどっちを目指すのか分からなくなる。有権者を混乱させてしまった」

『朝日新聞デジタル2022年11月13日 消費減税の訴え「間違いだった」立憲・枝野氏、公約見直しに言及』

野田佳彦元総理

民主党時代野田佳彦元総理もザイム真理教に入信するまでは、増税に反対していた。

民主党が政権を奪取した2009年の衆議院選挙。大阪16区の森山浩行氏への応援演説で野田氏は自公政権を批判し、次のように発言していた。

「書いてあったことは4年間何にもやらないで、書いてないことは平気でやる。それではマニフェストを語る資格がないというふうにぜひみなさん思っていただきたいと思います」

「消費税5%は12兆6000億円。消費税5%分のみなさんの税金に天下り法人がぶら下がっている。シロアリがたかってるんです。それなのにシロアリ退治をしないで、今度は消費税を引き上げるんですか?」

「シロアリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす。そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしい。徹底して税金の無駄遣いをなくすのが民主党の考え方です」

財務省のマインドコントロールは強力

2009年9月、民主党・鳩山由紀夫内閣の成立後、野田氏は藤井裕久財務相の後押しで財務副大臣に就任すると消費税増税派に鞍替えした。なぜ野田氏は増税反対派から増税推進派に変わってしまったのか。

財務官僚は「ご進講・ご説明」と呼ばれるザイム真理教の布教活動をおこなっている。特に権力の座についた政治家は恰好の的だ。財務副大臣ともなれば、布教活動は朝から晩まで連日おこなわれる。

このマインドコントロールは政治理念を覆すほど強力だ。2010年6月、菅直人内閣が発足すると野田氏は財務副大臣から財務大臣に就任した。この頃には、野田氏は信者から教団幹部にレベルアップしていた。

三党合意

2011年8月、菅直人首相の退陣による民主党代表選挙で野田氏は代表に選ばれた。総理の椅子を手に入れた野田氏はザイム真理教の教義を実践していく。

2012年6月15日「民主党・自由民主党・公明党」の三党が社会保障の財源として消費税引き上げの合意を成立させた。いわゆる「三党合意」だ。

この三党合意によって、消費税は2014年4月から8%、2015年10月から10%に引き上げられることになった。10%の増税は2019年10月に延期されたが、三党合意による消費増税は最終的に遂行された。

ザイム真理教への入信と政治不信

財務省は願ったり叶ったりだろう。もともと増税反対派の政治家が説教を積み重ねることで信者から総理大臣に出世し、ザイム真理教にとってもっとも重要な教義である消費税増税を実現したのだから。

ちなみに、増税分は社会保障の改革に充てることになっていたが、細かな手直しはあったものの、医療や福祉、公的年金制度はむしろ改悪が重ねられた。増税だけがタダ取りされた形となった。

野田氏のザイム真理教への入信は政治不信を招いた。「消費税は上げません」と言って政権をとった政党がシロアリに餌をあたえ、消費税を2倍にしてしまった。政治を信じろと言われても無理な話だ。

立憲民主党を中から変えるのは難しい

森永氏も2009年の衆議院選挙で民主党に一票を投じた1人だったが、いまだに立憲民主党には大きな不信感を抱いているという。それは当時の戦犯たちが今だに幹部の座に居座っているからだ。

立憲の信者でない者たちがリードし、党を中から変えていくことも難しいとされる。なぜなら、財務省がカルト教団のように強力な存在になっており、出世のためには信者にならざるをえないという現実があるからだ。

なお、財務省の軍門に下った宰相は野田氏だけではない。消費税を5%に増税し、デフレ経済のきっかけを作った橋本元総理「増税しても景気に影響はない」というご進講に関して「大蔵省に騙された」と述べている。

菅直人元総理

野田元総理の前任である菅直人元総理も当初は消費税増税に慎重だったが、総理に就任してからスタンスを大きく変えた。

2010年の参議院選挙の直前、消費税に関して「自民党案の10%を参考にする」と発言した。これが影響し、参議院選挙で民主党は過半数割れとなり、野党の協力なしの政策推進が困難となってしまった。

選挙の直前に消費増税を目指すと発言すれば、惨敗することは明らかである。この発言に関しては財務省のマインドコントロールに引っかかったのではと森永氏は推察している。

安倍晋三元総理

2023年2月8日に発売されたベストセラー「安倍晋三回顧録」の中で、安倍元総理は民主党の変容に関して次のように述べている。

『時の政権に、核となる政策がないと、財務省が近づいてきて、政権もどっぷりと頼ってしまう。菅直人首相は、消費税増税をして景気をよくする、といった訳の分からない論理を展開しました。民主党政権は、あえて痛みを伴う政策を主張することが、格好いいと酔いしれていた。財務官僚の注射がそれだけ効いていたということです』

『安倍晋三著/安倍晋三回顧録』

安倍氏の言う「注射」とは、「財務省によるマインドコントロール」を意味する。そして、そのマインドコントロールは現在の岸田総理にも向けられている。

安倍氏自身も「2014年4月・2019年10月」の二度の消費税増税で国民の貧困化を加速してしまった張本人である。

岸田総理

岸田総理は自民党総裁選の時までは「10年程度は消費税率を引き上げることはない」と発言し、増税に慎重だった。しかし、就任1年後には防衛増税を打ち出すなど緊縮財政派に変わってしまった。

2023年3月3日号の「週刊ポスト」の記事にはジャーナリストの長谷川幸洋氏の岸田総理についてのコメントが掲載されている。

「民主党政権は、財務省に言われるまま震災復興財源を名目にバカな復興増税をやり、社会保障を名目に消費増税を進めた。このことを安倍さんは回顧録で批判していますが、いまの岸田総理は、財務省の政策に寄り添って、防衛財源を名目に防衛増税を打ち出し、少子化対策という社会保障を名分に消費増税をやろうとしている。そっくりでしょう。岸田総理も当時の菅直人総理と同じように、財務省に注射されているのでしょう。経済政策についてわかっていない総理ほど、注射はよく効く」

長谷川幸洋氏のコメント「週刊ポスト2023年3月3日号『安倍晋三回顧録』が暴露する『岸田総理は財務省のポチ』」

2023年3月4日号の「週刊現代」の記事では岸田総理と財務省について次のように書かれている。

「総理官邸にも出入りする、学識経験者のひとりは言う。いまの岸田総理は、目が据わっている。”皆は批判するだろうが、俺はやる。たとえ国民が嫌がっても、必要な政策は実行する宰相になるんだ”という美学というか、一種の自己陶酔を感じます。その自己陶酔は、財務省の官僚たちから滲み出ているものと同質です。(中略)
財務官僚が政治家を籠絡する手口として有名なのが、「ご説明」と称する洗脳兼諜報活動である。省の中枢、主計局と主税局の課長以上の幹部が永田町の議員事務所を訪れ、「日本は借金まみれで危機的状況です」とか「少しでも改善するには、増税しかない」、「賢明な先生ならわかっていただけるはずだ」と説く。議員が反論してきたら、即退散。「なるほど、それは大変だ」と頷いたら「リスト」に入れる。(後略)

「週刊現代2023年3月4日号 財務省の岸田さん調教テクニック」

財務省に洗脳されていない政党は「れいわ新選組」だけ

自国通貨を持っている国は財政均衡に縛られずに、柔軟な財政政策をとることができる。財政赤字はある程度拡大させても大丈夫である。

ところが、岸田政権も2026年にプライマリーバランスを黒字化するという狂った目標を掲げ、財務省に忠実な財政均衡主義を受け継いでいる。

森永氏によれば、ザイム真理教の教義である「緊縮財政」や「財政均衡主義」に洗脳されていない政党は「れいわ新選組」だけだという。

どっかの政党が財務省とべったりっていうんだったら、その政党を選挙で落とせばいいんですけども。自民党から共産党に至るまで、すべての政党に信者がいる。私の調査によると、財務省の「ご説明攻撃」が来てないのは「れいわ新選組」だけなんです

三橋TV/2023年8月9日放送『森永卓郎先生登場! 財務真理教 信者8千万人のカルト教団 [三橋TV第740回] 森永卓郎・三橋貴明』より

参考:『森永卓郎著/ザイム真理教』、『安倍晋三著/安倍晋三回顧録』

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