ウォーターゲート事件は、世界でもっとも有名な政治的陰謀だ。
時の大統領リチャード・ニクソンは陰謀の証拠を隠滅しようとしたが失敗し、アメリカではじめて辞職に追い込まれた大統領である。
今回は、世界でもっとも有名な政治スキャンダル「ウォーターゲート事件」について見ていこう。
- ウォーターゲート事件について
ウォーターゲート事件とは
大統領選挙戦の真っただ中であった1972年6月17日、5人の男たちがウォーターゲート・ビル内にある「アメリカ民主党委員会本部」へ不法侵入し、逮捕された事件である。
- ジェームズ・マッコード:元FBI・元CIA職員、大統領再選委員会警備主任
- バーナード・バーカー:元CIA職員で亡命キューバ人の訓練教官
- バージリオ・ゴンザレス:退役軍人・反カストロの亡命キューバ人
- ユージニオ・マルチネス:退役軍人・反カストロの亡命キューバ人
- フランク・スタージス:退役軍人・反カストロの亡命キューバ人
グループのリーダーだった元CIA職員のジェームズ・マッコードは4人の男たちとワシントンDCにある「ウォーターゲート・ビル」に忍び込んだ。選挙戦を有利に進めるため当時野党であった民主党の電話に盗聴器を仕掛けようとしたのだ。
盗聴事件にニクソン政権は関与していた
のちに、ワシントンポストの記事などで、この「ウォーターゲート侵入・盗聴事件」にニクソン政権が深く関わっていたと暴露された。
共和党のニクソン大統領再選委員会の関係者だったジョージ・リディと元ホワイトハウス顧問だったハワード・ハントが犯行グループの背後にいたとして逮捕されたのだ。
- ジョージ・リディ:大統領財政顧問・大統領再選委員会
- ハワード・ハント:元ホワイトハウス顧問・元CIA工作員
元々、この2人は1971年のペンタゴンペーパーの漏洩後、情報漏洩を防ぐために政府に作られた特別調査チーム「The White House Plumbers(通称・配管工)」のメンバーでもあったのだ。
侵入チーム5人にリディとハントの2人を加えた実行部隊は「ウォーターゲート・セブン」と呼ばれた。
ウォータゲート事件でニクソン大統領は辞職
リチャード・ニクソンは1968年の大統領選挙で勝利し、第37代アメリカ合衆国大統領になった人物。
大統領再選を目指していた1972年にウォーターゲート事件を起こし、再選後の1974年に辞任に追い込まれた。
彼は任期中に辞職した唯一のアメリカ合衆国大統領である。
ウォーターゲートとJFK暗殺事件の関係
ウォーターゲート事件の関係者には、『JFK暗殺事件』ともつながっている者たちが多い。
ドロシー・ハントの死の謎
ウォーターゲート事件の主犯格のひとり、ハワード・ハントの妻ドロシー・ハントはある機密情報を持っていたとされる。
そして、それをダシにしてホワイトハウスを脅迫し、口止め料として数百万ドルを恐喝したという噂が出ていた。
JFK暗殺直後に、現場近くの芝生の丘で撮られた有名な写真「三人の浮浪者」。その三人のうちの一人が当時CIA工作員だったハワード・ハントなのではと言われている。
それが事実ならば、ハントはJFK暗殺に関わりがあったということになる。
ドロシーを乗せた飛行機が爆発炎上
- ドロシー・ハント:ハワード・ハントの妻
- ミッシェル・クラーク:CBSのジャーナリスト
- ジョージ・コリンズ:シカゴの下院議員
1972年12月8日、上記の三人はウォーターゲート事件の調査で合流すると、ワシントンからシカゴへ向かうユナイテッド航空553便に乗り込んだ。
理由は不明だが、この時ドロシー・ハントは小切手と為替で200万ドル以上の大金を所持していたという。
その飛行機はシカゴミッドウェイ国際空港に向かっていたが、途中で爆発炎上し乗員43名が帰らぬ人となった。飛行機の墜落現場に最初に到着したのはFBIである。
総勢の50名の捜査官たちは、すぐさま現場を包囲し、到着した救急隊員すら寄せ付けず、飛行機の残骸を調査した。
ここでも不審な点が指摘されている。
- 乗客の体内から検出されたシアン化合物の濃度は、なぜか同様の事故を想定した基準値の5倍もあった
- FBI捜査官50名は、なぜ飛行機の墜落現場に救急隊よりも早く到着することができたのか
- ドロシー・ハントの死亡診断書の日付は1972年12月8日なのに、検視官のサインは1973年11月4日になっている
オズワルドとハントは知り合いだった?
リー・ハーヴェイ・オズワルドは、「ジョン・F・ケネディ暗殺の実行犯」とされている人物。
1963年11月10日、オズワルドはハワード・ハントに「Mr.ハント、自分を使ってほしい」と仕事を要求する内容の手紙を書いている。そして、1963年11月22日に「JFK暗殺事件」が起きた。
研究者たちは、この手紙が「ハントがJFK暗殺に関わっていた証拠」だと結論付けている。
JFK暗殺とFRBそしてニクソン
オズワルドの妻・マリーナ・オズワルド・ポーターは、「JFK暗殺事件」におけるFRB(連邦準備銀行)の関わりが不可解であると指摘している。
アメリカの貨幣量を調整する役割を持つ民間企業「FRB」はロックフェラー家が大株主であり、ウォーターゲート事件でニクソンを辞任に追い込むだけの金銭的、政治的権力があったと推測する者もいるようだ。
大富豪ハワード・ヒューズと陰謀
ハワード・ヒューズは、20世紀を代表する億万長者で変わり者。かつて「資本主義の権化」、「地球上の富の半分を持つ男」と呼ばれた大富豪で映画製作や航空事業にも力を入れていた。
「ニクソンの選挙活動にも莫大な資金提供をおこなっていた」とされる。
1972年、ヒューズは「ラスベガスの新聞発行人ハンク・グリーンスパンのオフィスから脅迫文書を盗み出してほしい」とホワイトハウスに依頼したことがあったという。
そして、その潜入工作をおこなったのが、「ウォーターゲート・セブン」だという。
ヒューズと仲間の石油王たちはニクソンやJFK暗殺計画とつながっていたとされるが、このウォーターゲートにも関わっていた可能性が高い。
マーティン・スコセッシ監督の映画「アビエイター」では、レオナルド・ディカプリオがヒューズを演じている。
ウォータゲート事件を扱った映画「ニクソン」
1995年、陰謀論者として名高い映画監督オリバー・ストーンは、主役にアンソニー・ホプキンズを起用し、映画『ニクソン』を制作した。
ストーンはウォーターゲート事件で発覚したのはごく一部であり、もっと多くの邪悪な策略が潜んでいると推察した。
陰謀論を題材にしたストーンの映画『JFK』と同じように『ニクソン』も体制側や登場人物から不評を買ったが、ストーンの支持者たちは、その否定や罵倒こそが映画で真実が語られている証拠だと主張した。
「ウォーターゲート」の意味とは
ウォーターゲート事件の「ウォーターゲート」という名称は、民主党委員会本部のあった「ウォーターゲート・ビル」というビル名から取られている。
この事件以後、政権周辺で起きた疑惑や不祥事は、ウォーターゲートにちなみ「○○ゲート」と呼ばれるようになった。
その他の「○○ゲート」と呼ばれる政権がらみの事件は以下のとおり。
- ビリーゲート (Billygate)・・・1980年にジミー・カーター大統領の実弟であるビリー・カーターが、アメリカ政府が関与する形でリビア政府と不適切なコネクションを持っていたのではないかという疑惑。
- イランゲート (Irangate) / コントラゲート (Contragate)1986年レーガン政権下で起きたイラン・コントラ事件。
- イラクゲート(Iraqgate)1980年代のレーガンおよびジョージ・H・W・ブッシュ政権下で起きたイラクのサッダーム・フセイン政権への軍事援助疑惑。
- チャイナゲート (Chinagate)1996年アメリカ合衆国大統領選挙でのビル・クリントン政権に絡む中華人民共和国による選挙介入疑惑。
- ベンガジ・ゲート (Benghazigate)2012年アメリカ在外公館襲撃事件を巡るバラク・オバマの情報隠蔽疑惑。
- ロシアゲート (Russiagate)ドナルド・トランプによる2016年アメリカ合衆国大統領選挙に絡むロシアの介入疑惑。
- ピザゲート (Pizzagate)2016年に起きた、偽ニュースサイトによりヒラリー・クリントンが人身売買に加担していると言うデマが拡散され、これを信じた男がピザ店を襲撃した事件。
出典:ウィキペディア
○○ゲートの事件といえば・・・
ディープスロートの正体
事件当時、ワシントンポストのボブ・ウッドワード記者に、ウォーターゲート事件に関する内部情報を提供していた「ディープスロート」と呼ばれる人物がいたが、長い間その正体は謎に包まれていた。
そして、これまで次の人物がディープスロートの正体であると囁かれてきた。
- フレッド・ラルー(ニクソン政権幹部で、事件の隠蔽工作を行ったとされる)
- アレクサンダー・ヘイグ准将(ペンタゴンからニクソン政権に送り込まれた大統領特別補佐官)
- ジョージ・H・W・ブッシュ
- ヘンリー・キッシンジャー
事件から33年後の2005年5月、元FBI副長官だったマーク・フェルトが「実はディープスロートは僕なんだ」と明かしたことで、ようやくその正体が判明した。
ディープスロート(deep throat)は、本来は「喉の奥深く」を意味する言葉だが、ウォーターゲート事件後から「内部告発者」のことを指す隠語として使われるようになった。
ウッドワード記者は、彼がなぜ自分に内部情報をリークしたのか長年疑問であったが、それを聞き出す前にフェルトは旅立ってしまった。
ニクソン失脚はJFK暗殺事件の真相を隠蔽するため?
裁判の途中から追及の中心となったのは証拠のテープに関することだった。ニクソンは最後まで録音テープの提出を拒み続けていた。
ホワイトハウスで捜査妨害やもみ消しに動いていた証拠の会話が録音されたテープの存在。そして、ウォーターゲートビルで録音されたテープには侵入事件の隠蔽工作にニクソンが関わった証拠が収められていた。
以下がテープに残されていたニクソンの言葉だ。
「おい、『これ』のせいでピッグス湾の件がすべて明るみに出てしまっては困る」
『これ』とはウォーターゲート事件のことである。
「ピッグス湾」とは、ニクソンが「ジョン・F・ケネディ暗殺」のことを話すときに使用する隠語であると内政担当補佐官ジョン・アーリックマンが認めている。
つまり、ニクソンは「ウォーターゲート事件のせいで『ジョン・F・ケネディ暗殺』の件がバレたら困る」と言っていたのだ。