スイス建国の英雄として知られるウィリアム・テル。彼の物語も不服従というテーマと切っても切り離せない。s
当時のスイスはオーストリアの支配下にあり、民衆は代官ゲスラーの圧政に苦しめられていた。彼は自らの権力の象徴である「帽子」を棒の上にかけ、その前を通る者にお辞儀を強制していた。
ある時、テルは息子と一緒に帽子の前をお辞儀をせずに通り過ぎてしまい、兵士に捕まってしまった。ゲスラーは罰として息子の頭の上にリンゴを乗せて一矢で射落とせと命じた。
すると、テルは見事にリンゴを射抜いた。しかし、ゲスラーになぜ、矢をもう一本持っているのかと聞かれ、日頃からの圧政に苛立っていたテルは正直に答えてしまうのだ。
「もし、リンゴを射抜くことに失敗して息子に当たりでもしたら、もう一本の矢で代官殿を射るつもりだった」
この返答に激怒したゲスラーはテルを再び拘束するが、逃亡に成功したテルはゲスラーを弓矢で仕留める。
テルがゲスラーを打倒した事がきっかけとなり、民衆は一斉に蜂起した。そして、オーストリアの支配をスイスから一掃し、スイスに自由と独立がもたらされたという。
とはいっても、ウィリアム・テルが実在した証拠は見つかってはいない。それでもなお、スイス人の多くがこの物語を信じており、暴政に対する不服従の象徴として語り継がれている。
参考:将基面貴巳著/『従順さのどこがいけないのか』、スタンレー・ミルグラム著/『服従の心理』、アルノ・グリューン著/『従順という心の病い』