不思議な話

【離脱か発言か】忠誠心と従順さは違うもの

忠誠心と不服従について理解するのに経済学者アルバート・ハーシュマンが、その著書離脱・発言・忠誠:企業・組織・国家における衰退への反応で示した考え方は参考になるだろう。

彼は忠誠心の問題を道徳的に正しいかどうかではなく、経済学者らしく「利益を最大化し損失を最小化する」ということを前提に置き、理解しようと試みた。

衰退しつつある組織において人はどのように振る舞い、忠誠心を示すのだろうか。ある経済学者の論じる忠誠心について。

上手くいっている組織では忠誠心の問題は生じない

ハーシュマンの理論は「衰退しつつある組織」を想定している。

そもそも、上手くいっている組織であればメンバーは組織を裏切る必要もなく、上層部もメンバーの裏切りを心配する必要など無い。

上手くいっている組織では忠誠心の問題は生じようがない、というのがハーシュマンの理論の前提となっている。

離脱と発言

たとえば倒産の危機に瀕している企業があるとして、あなたが、その企業の社員だとしたら、どのような行動をとるだろうか。

その場合の主な選択肢は「離脱」「発言」の2つ。

  1. 離脱:会社が倒産する前に辞めて、経営が上手くいっている別の会社へ転職する
  2. 発言:その企業にとどまり、上層部に体質の改善や業績を上げるために意見をする

この「離脱」と「発言」というキーワードを使ってハーシュマンは忠誠心について説明している。

あなたが平社員なら、会社の再建案を必死に訴えても、上層部は聞く耳を持ってくれないかもしれない。

しかし、会社が危機的状況にあるのを目の前にして黙ってはいられない、という態度をハーシュマンは「発言」と呼んでいる。

また、「離脱」は今いる組織を見限って、よそに移ることを意味する。組織が危機的状況にあり、どちらかを選択しなければならない場合、「離脱」する方がまだハードルが低いように思える。

忠誠心とは離脱を保留させ発言を促すもの

「忠誠心」と「忠誠心のある人」については、次のように定義されている。

忠誠心とは、人に「離脱」という選択を保留させ「発言」することを促すもの

忠誠心のある人とは、自分が属している組織から逃げ出さず、その組織を改善するため努力する人のこと

衰退しつつある組織において上層部にとって耳の痛い「発言」をする人こそが、その組織に忠誠心を抱く人だ、という結論になる。

忠誠心のない人々

通常、組織の上層部を批判することは「従順ではない」と見なされ、批判的な発言をする社員は目障り以外の何ものでもない。むしろ、黙って上層部の指示に従う社員を忠実だと評価するものだ。

だが、上層部の言うことにひたすら素直に従ったり、沈黙して発言しようとしない人々こそ「忠誠心のない人々」だという。

また忠誠心に関して、このような認識の違いが起きるのは忠誠心の対象が微妙に異なっているからだ。

忠誠心とは組織全体に対して発揮されるもの

衰退しつつある企業の社員が「発言」するのは、企業全体の立て直しのためだ。企業全体の赤字を解消して業績を好転させるために、上層部の経営内容を批判する。

一方、上層部の指示に盲目的に従い、「発言」しない社員たちは企業全体を良くしようと考えるのではなく、上層部の人間に忠誠心を抱いている。

ハーシュマンは忠誠心を抱く対象について次のように論じている。

忠誠心とは、組織全体に対して発揮されるものであって、組織のトップや指導者といった特定の個人に発揮されるべきではない

あとがき

ある組織を「日本」、組織の指導者を「政権与党」、そのメンバーを「国民」と言い換えてみると、日本人の誤った忠誠心や従順さがあぶり出されかねない。

  • 与党が国会で何度も何度も嘘をつく
  • 与党が裏金を作る
  • 与党がカルトと組んでいる
  • 収入の半分が税金で取られる
  • 社会保障が減らされる
  • 実質賃金が上がらない
  • 年金が減らされる
  • 公文書が改ざんされる
  • 消費税はほんの一部しか社会保障に使われていない
  • 消費税は大企業の法人税減税の穴埋めに使われている
  • 消費税は大企業の輸出還付税に使われている
  • 増税するが減税しない

上記は一部だが、国民にとって様々な不利益をこうむることがあっても、政権与党に「離脱」や「発言」を突きつける国民の数が少ないのは選挙の投票率を見ても明らかだ。

さらに、選挙で自公が議席を大幅に減らし過半数を割ったとしても、相変わらず与党や、その補完政党を支持してしまう人々がいまだに多く存在する。別の意味での「日本すごい!」が、もうしばらく続きそうである。

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