マルコムXは、人種差別の嵐が吹き荒れる1960年代のアメリカで黒人の権利拡大のために戦い、身を捧げた人物だ。
世界をまわり黒人至上主義を掲げ、人権侵害の壁を殴りつけ、白人社会へ牙をむいたためなのか、志半ばで凶弾に倒れた。
マルコムXの死には不審な点も多く、彼を殺したとされる黒幕については諸説語られるようになった。
今回は、そんなマルコムXの激動の人生と死の謎について見ていく。
マルコムXを殺したのは誰だ?
マルコムXが凶弾に倒れる
1965年2月14日、ニューヨークにあったマルコムの自宅は、「ネーション・オブ・イスラム」のメンバーにより爆弾で攻撃されるが、幸いマルコムの家族は無事であった。
しかし、それから1週間後の2月21日、ニューヨークのマンハッタンにあるオーデュボン舞踊場で演説をおこなっていたマルコムは、ネーション・オブ・イスラムの信者たち3名から15発の銃弾を受け殺害された。
マルコムXを殺したのは誰だ?
マルコムXを殺した黒幕については、これまで様々な説が語られている。
しかし、事件から50年以上たった今でもその真相は闇の中である。
- ネーション・オブ・イスラム黒幕説
- マフィア黒幕説
- FBI黒幕説
- アメリカ政府黒幕説
ネーション・オブ・イスラム黒幕説
ネーション・オブ・イスラム(NOI)は、マルコムXが一時期、所属していたイスラム教系の宗教団体。
教団はシカゴに本拠地を置く。
マルコムは一時期、この宗教団体に所属していたが、団体リーダーの十代少女への性的虐待を告発したり、幹部と上手くいかなくなったことで脱退した。
教団信者たちからは教祖「イライジャ・ムハンマド」や幹部の「ルイス・ファラカン」を冒涜したとして、マルコムを良く思わない者たちもいた。
その盲目で無垢なる魂がマルコムX殺害の引き金を引いたのかも知れない。
ネーション・オブ・イスラムの上位メンバーが政治的にも宗教的にもマルコムXへの敵意をあおったことは明らかである。
マフィア黒幕説
黒人たちの腐敗を正すため、真っ当な生活習慣の確立を目指したマルコムXは、貧しい黒人社会を食い物にする麻薬取引を激しく批難した。
貧民街の住民たちは、マフィアにとっての格好の資金源であったからだ。
その利益を脅かされたマフィアたちが、黙ってみているワケもなく、マルコムを狙った可能性も十分に考えられるのだ。
FBI黒幕説
FBI黒幕説には登場人物が多く、ややこしいので7人の登場人物を明記している。
事件当日、暗殺の実行犯と容疑者、FBI潜入捜査官などが殺害現場で目撃されていた。
登場人物
- ジョン・エドガー・フーヴァー・・・FBI初代長官
- ウォルター・ボウ・・・マルコムXが立ち上げた組織「アフリカ系アメリカ人統一機構」の上位メンバーでテロリストグループのリーダー
- レイモンド・ウッド・・・ニューヨーク市警察から派遣された潜入捜査官
- ジーン・ロバーツ・・・FBIから派遣された潜入捜査官
- トマス・ヘーガン・・・NOIの信者で暗殺首謀者
- トマス・ジョンソン・・・NOI信者で事件への関与を否定
- ノーマン・バトラー・・・NOI信者で事件への関与を否定
FBI初代長官ジョン・エドガー・フーヴァー
初代FBI長官「ジョン・エドガー・フーヴァー」は人種差別主義者であったとされる。
そんな彼にとって、アメリカ国内および世界中で「黒人至上主義運動」に邁進するマルコムXは目の上のタンコブでしかなかった。
マルコムが殺害される1週間前に、FBIはマルコムXの組織の上位メンバーだった「ウォルター・ボウ」率いるグループによる「自由の女神」などの記念碑を爆破する計画を阻止していた。
フーヴァーにしてみればマルコムXも過激派組織のリーダーにしか見えなかったのだろう。
アメリカの白人社会にあだなすマルコムは、フーヴァーにとってじゅうぶん排除対象になりえたといえる。
潜入捜査官レイモンド・ウッドとジーン・ロバーツ
レイモンド・ウッドとジーン・ロバーツの二人は、ニューヨーク市警とFBIから派遣された潜入捜査官であり、マルコムXの組織に潜入し、極秘任務にあたっていた。
のちに、この二人がマルコムの殺害現場で逮捕されるところを目撃されていたにも関わらず、その記録が残ってなかったことがさらなる疑惑をよんだ。
二人がマルコム殺害に関与してから50年以上が経過していたが、これまでニューヨーク市警とFBIは、二人に関する捜査資料を一部たりとも公開しなかった。
当局が資料の公開を拒んできた理由は、容疑者の家族の安全を確保するためであったが、二人がこの世から去ったことでその封印が解かれようとしている。
元警察官レイモンド・ウッドは、この潜入捜査に関する手記を残していた。
ウッドの死後、2021年2月、この事件について記された手記が遺族により公開されたのだ。
マルコム殺害の首謀者トマス・ヘーガンと事件への関与が疑われた信者2名
1965年2月21日、ニューヨークのオーデュボン舞踊場でマルコムXを殺害したトマス・ヘーガンと同じ教団の信者トマス・ジョンソンとノーマン・バトラーの三人が殺害現場で逮捕された。
ヘーガンはネーション・オブ・イスラム教団内でもひときわ目立つ活動家だった。
彼は自らの犯行を認めたが、ジョンソンとバトラーの二人に関しては事件と無関係であると関与を否定しつづけていた。
ヘーガンは2010年に釈放されたが、それまでずっとマルコム殺害の共犯者の名を口にすることを拒んでいた。
彼は、「名を明かすことは出来ないが、共犯者の二人は教団メンバーでもイスラム教徒でもない」と語った。
アメリカ政府黒幕説
マルコムXを殺害したのは、アメリカ政府だという説も囁かれている。
当時、マルコムの働きかけにより、「国連がアメリカを糾弾し、人権侵害問題の解決を図る可能性が高かった」とされる。
もし、そんなことになっていたら、アメリカ合衆国という国はどうなっていたのだろうか。
本当の意味での「自由の国」となっていたのだろうか。
だから、そうなる前にアメリカ政府はマルコムを厄介払いしたのかもしれない。
マルコムXの死と不都合な真実
マルコムXの暗殺については、黒幕説と共にいくつかの奇妙な点が存在する。
- 救急隊が来るまで30分近くかかった
- 2021年2月、ニューヨーク市警の元警察官の手記が公開された
- 暗殺犯の証拠をつかんでいたレオン・アミールの怪死
救急車が来るまで30分近くかかった
マルコムが銃撃されたオーデュボン舞踊場の向いには病院があったにも関わらず、救急隊が到着するまで、なぜか30分近くかかったという。
元警察官レイモンド・ウッドの手記が公開された
前述した「FBI黒幕説」に登場したニューヨーク市警の元警察官だったレイモンド・ウッドは、2020年11月に死去した。
その翌年の2021年2月、遺族は彼の手記を公開した。
手記には以下の事が記されており、マルコムX暗殺にニューヨーク市警とFBIが関与していた可能性が示唆されていた。
- 私はマルコムXの組織に潜入し、ボディーガードを務めていた側近二人をマルコムから引き離す任務についていた
- そのため側近二人を罠にかけ、犯罪に関与させるとニューヨーク市警察に逮捕させた
- マルコムXの身辺警護が手薄になったことが、彼の暗殺につながってしまったのではないか
- 当時はマルコムXが真の標的だとは認識していなかった
暗殺犯の証拠をつかんでいたレオン・アミールの謎の死
レオン・アミールはマルコムXの死後、「アフリカ系アメリカ人統一機構」のリーダーになった人物。
アミールは健康マニアで武術のインストラクターをしていた。
1965年3月10日、アミールはマルコムX殺害犯の証拠となる資料とテープを持っていると公表し、妻子を安全な隠れ家に移すと、証拠を持ってFBIに会いにいった。
しかし、3月13日、なぜか彼は自宅アパートで死体となって発見される。
当初、死因は「癲癇(てんかん)の発作」だとされたが、アミールの主治医が登場し「アミールは癲癇ではなかった」と証言したことで、その後、死因が二転三転することになった。
- 癲癇発作
- 睡眠薬の過剰摂取
- 自然死
アミールの死因は、癲癇発作から睡眠薬の過剰摂取に訂正されたあと、最終的には自然死として処理された。
「マルコムを殺した犯人たちはシカゴ(教団の本拠地)の人間でなない。政府の人間だ」
これが、レオン・アミールの残した最後の言葉だった。
あとがき
マルコムXを殺したのは誰だ?
誰が何のために。
彼の死についてはいくつかの説が存在するが、登場人物たちの発言を注意深く見ていくと、おのずと一本の糸につながっていく。
マルコムXは教団の放った凶弾で倒れたのではない。