不思議な話

カートコバーンの死をめぐる5つの説と不審な点

1994年、ロックバンド「ニルヴァーナ」のフロントマンだったカートコバーンは、わずか27歳でその生涯を閉じた。

90年代のグランジ・オルタナティブシーンを牽引した伝説的ロックスターの死は世界中のロックファンに衝撃を与えた。筆者の青春時代の残りの数年はニルヴァーナの曲とともにあった。

公式の発表ではカートの死は自殺と断定されているが、その発表をいまだ信じることができず、他殺であると考える者たちが今も世界中に存在する。

この記事では、いまだ他殺説が囁かれているカートコバーンの死について見ていこう。

この記事で取り上げること
  • カートコバーンの死をめぐる5つの説について

カートコバーンの死

1994年4月8日、カート・コバーンはシアトルの自宅で、遺体で発見された。

その概要は以下のとおり。

カートコバーン自殺事件の概要
  • 遺体は死後3日が経過していた
  • 医師による解剖の結果、死亡日は4月5日と発表された
  • 地元シアトル警察は自殺と断定
  • 死因はショットガンで頭部を打ち抜いての自殺
  • 体内からは鎮静剤が検出された
  • 左右両肘に刺傷があった
  • カートは死の直前にリハビリ施設から脱走している
  • 妻のコートニー・ラヴの関与も疑われている

自殺までの経緯

日時 カートの行動
 1994年2月20日 27歳の誕生日
1994年3月8日 ヨーロッパツアー中のローマのホテルでシャンパンと大量の鎮静剤を服用し、自殺を試みる。
昏睡状態の陥るが、その後回復する。
1994年3月18日 自宅の部屋に銃を持って立てこもり自殺をほのめかす。
コートニーが警察に通報するが、警察が到着する前に思いとどまる。
1994年3月28日 ロサンゼルスのドラッグ更生施設に入所する。
1994年3月30日
(4月2日という情報もある)
更生施設を脱走し行方不明に。
その後、シアトルに戻り、友人のつてで20口径のショットガンを購入。
1994年4月5日
(推定)
シアトルの自宅に忍び込み、致死量の3倍のヘロインとバリウムを服用後、ショットガンで頭部を打ち抜いて自殺。
この時、近所の住民で銃声を聞いた者はいなかったため、カートの正確な死亡日時は不明。
1994年4月8日 カートの自宅に防犯灯を取り付けにきた電気工事士のゲイリー・スミスがカートの遺体を発見する。

遺体の第一発見者は電気工事士のゲイリー・スミス

カートの第一発見者は、電気工事士のゲイリー・スミスだ。

1994年4月8日の午前8時40分、スミスはシアトルにあるカートの邸宅に防犯灯を取り付けるために訪れると、仰向けに倒れているカートを発見した。

自殺に使用したショットガンはカートの胸付近に置いてあった。

遺体の発見現場には、彼の「遺書」とそれを書いた「ペン」、注射器やあぶったスプーンなどが入った「小さな箱」があった。

私立探偵トム・グラントの主張

1994年4月3日、私立探偵のトム・グラントはカートの妻・コートニー・ラヴから脱走したカートの捜索を頼まれた。

カートは、その前日の4月2日(3月30日という話もある)に入所していた更生施設「エクソダス・リハビリ・クリニック」の壁をよじ登って脱走し、シアトルの自宅に戻ってしまったのだ。

コートニーは、この一ヶ月前にカートがドラッグの過剰摂取で死の淵を彷徨い、ショットガンもって帰宅したというのに会いに行こうともしなかった。

そして、カートを監視させるために探偵トム・グラントに電話をかけ、謎めいたセリフを吐いた。

「アメリカのアイドル(偶像)を守ってね、トム」

グラントは、4月7日の「午前2時45分」「午後9時45分」にシアトルの自宅を捜索したが、そこにカートの姿はなかった。

この時、カートは自宅ガレージの屋上にある温室(greenhouse)に横たわっていて、遺体が発見されたのは翌日のことだった。

「カートは自殺したのではなく、殺害されたのだ」とグラントは供述している。

カート・コバーンの遺書と5つの不審な点

Nirvana around 1992MTV Video Music Awardsに出演するニルヴァーナとコバーン(1992年)image:wikipedia

公式には自殺と断定されたカート。

しかし、そんな自殺説に疑問を抱かせるような不審な点がいくつもあるという。

カートコバーン自殺説の不審な点
  1. カートのクレジットカードが一枚なくなり、彼が死亡する直前に使おうとした者がいる
  2. ショットガンにも薬莢にも指紋がついていない(誰かが拭き取った)
  3. 遺体からは行動不能になるほどの多量のヘロインが検出されており、自分で発砲するのは不可能だった
  4. 「遺書」とされているものに書いてあるのは、カートが音楽活動を引退する理由であり、遺書ではない
  5. 妻や娘の事に触れている遺書の「最後の4行」の部分は、カート以外の誰かが書いたものであると、多くの筆跡鑑定家が断定している

そして、以下が遺書の中で怪しいとされている最後の4行の部分である。

Frances and Courtney, I’ll be at your altar.
Please keep going Courtney, for Frances.
For her life, which will be so much happier without me.

I LOVE YOU, I LOVE YOU!

出典:カートコバーンの遺書を詠む

最後の4行の日本語訳は以下のとおり。

「フランシスとコートニーへ 俺はこれからは祭壇にいるから
コートニー フランシスを頼んだよ
俺がいなくても、フランシスが自分の人生をもっと幸せに生きていけるように
アイラブユー、愛している」

カートの死をめぐる5つの説

KurtCobainHouseカート・コバーンが亡くなった自宅 image:wikipedia

カート・コバーンの死が自殺でなかったとするなら、彼を死に追いやった黒幕はいったい誰なのか?

これまで噂となっていた5つの陰謀説を紹介する。

カートコバーン暗殺の陰謀説
  1. 犯人はカート・コバーンの近くにいる者
  2. 音楽業界の闇
  3. カート・コバーン
  4. 軍産複合体
  5. ドリーマシン

①犯人はカート・コバーンの近くにいる者

Courtney Love (17890556711)Courtney Love@ Majestic Ventura Theatre 5/19. image:wikipedia

「犯人はカートのすぐそばにいた者だ」という説。

それは、「家族」「親友」「雇用者」などカートの近くにいたすべての人間が対象になりえる。

妻のコートニー・ラヴは、その後7か月間に渡り、探偵のグラントにカートの死について調べさせている。

仮に、この事件が他殺だったとして、犯人や共犯者が怪しまれずにカートに近づけたのは信頼を得ていたからだ。

②音楽業界の闇

ただ単にカートは音楽に情熱を傾けることが出来なくなり、いつしか業界を去ることだけを考えるようになったのかも知れない。

しかし、ロックの伝説となったカートに去られでもしたら、「音楽業界」「レコード会社」にとっては大損である。

ただ居なくなってしまうよりも、「今は亡きロックの伝説」となった方が再度ブームがやってきたかのように生前のレコードが爆発的に売れるのだ。

仮に音楽業界に「カートコバーンの引退」「今は亡きロックの伝説」を天秤にかけた者がいたとすれば。

③カート・コバーン

「カートコバーンを死に追いやったのはカートコバーン自身」という説。

これはカートがまだ、この世界のどこかでひっそりと生きていると信じている陰謀論者がいなければ成り立たない説だ。

この説は、カートが生前自分を縛りつける次のようなものから自分を解放したくて死を偽装したという説である。

カートが束縛を感じていたもの?
  • 音楽業界
  • 有名人である重圧
  • 妻子
  • ドラッグ

④軍産複合体

カートは政治に無関心な若者たちの代弁者だったかもしれない。

もし、彼が世界中で起きている紛争に反対する立場をとり、かつての「ジョン・レノン」のようにその影響力を使って世界中の若者たちに「愛と平和」を訴えだしたら、どうなっていたのだろうか。

軍産複合体は紛争地域に兵器を売ることで巨大な利権を維持しているが、伝説のロックスターが鉄壁の集金システムの障害になるのなら、その存在は脅威以外の何物でもなかったであろう。

⑤ドリームマシン

D. Woodard and W. S. Burroughs with Dreamachine, 1997デビッド・ウッダードとウィリアム・S・バロウズがドリーマシンの後ろに立つ、1997年 image:wikipedia

カートの自宅の温室から「ドリームマシン」が見つかった。

ドリームマシン(dream machine)とは、「意図的にトランス状態を誘発する装置」で以下の材料で作られている。

ドリーマシンの材料
  • 電球
  • レコードプレーヤー
  • スリットの入った段ボール

アメリカの音楽指揮者であり作家のデビッド・ウッダードはドリームマシンの開発者ではなかったが、カートに頼まれて、この装置を製作したという。

のちの捜査では、自殺をはかる数週間のあいだでカートがドリームマシンを過剰に使用したことは無かったと判明している。

しかし、目を閉じてドリームマシンの光を観察すると、「薬物中毒」「夢を見ている時」と同じような精神状態を引き起こすとウッダードは主張している。

あとがき

バント名にもなっている「ニルヴァーナ」とは、仏教用語で解脱(げだつ)涅槃(ねはん)といった、いわゆる「悟り」を意味し、現世の苦悩から解放されて絶対自由の境地に達することを言う。

仮にカートが人生に絶望し、苦悩から逃げ出すために死を選んだのだとしても、それは「解脱」とは言えないのだという。解脱には「死をもって悟りをひらく」という意味はないからだ。だが、それではあまりに救いが無い。

ならば、カートが死を偽装し、伝説のロックスターから名もなき一般人に生まれ変わり、すべてから解放されたとする説はどうか。

つまりは、解脱ではなく「輪廻転生」を選んだという陰謀説を信じる方が彼のあとを追ってこの世を去るよりも、よっぽど健全なのかもしれない。

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