世界の悪魔主義者の崇拝対象であり、すべての悪魔を率いる地獄の支配者サタン。
多くの創作物にも登場し、神と並ぶほどの知名度を持つ。
しかし、サタンの正体に関しては古代から諸説あり、いまだ謎めいている。
今回は、悪魔の総大将、サタンについてご紹介しよう。
悪魔を知れば、世界にはびこる悪魔崇拝者の思考を読み解くカギになるかもしれない。
悪魔の王サタンとは
「サタンとは何者か?」という問いには簡潔で明確な答えは出てこない。
それは古(いにしえ)の時代からの論争がいまだに終わっていないことからも察することができるだろう。
これが、「最強の天使は誰か?」という質問なら、「大天使ミカエル」と即答できるのだろうが。
サタンの正体に関する諸説
謎に包まれた「サタンの正体」に関しては諸説ある。
- サタンという固有の悪魔が存在する説
- 堕天使ルシファー説
- 堕天使アザゼル説
- 蠅の王ベルゼブブ説
- 天使サマエル説(グノーシス神話)
- キリストの兄・サタナエル説
- 悪魔の王を表すただの階級名である説
サタンという固有の悪魔が存在する説
サタンという固有の悪魔がいるという説や他の強力な悪魔の別名など、サタンとはどんな悪魔なのかという話には様々な説が存在する。
堕天使ルシファー説
神に逆らい天界から追放された堕天使ルシファーがサタンだとする説も有名である。
つまり、堕天使ルシファーの別名がサタンであるというものだ。
堕天使アザゼル説
アザゼルも神に逆らい天界から追放された天使で、その名に「神のごとき強者」という意味を持つ。
アザゼルは神が創った最初の人間アダムに仕えるよう命令されたことに怒り、反乱を起こした。
天使よりも後に作られた人間が神に寵愛されていることやその人間に仕えることを屈辱に感じていたからだ。
蠅の王ベルゼブブ説
ベルゼブブは実力的には、サタンやルシファーの次と称される高位な悪魔だ。
地獄の支配者の一人に数えられるベルゼブブは、巨大な蠅(ハエ)の姿をしていて「蠅の王」として知られている。
本来ベルゼブブはヘブライ語で「高所の神」や「天国の王」を意味する「ベルゼブル」という言葉が由来になっているが、それがなぜ蠅の王になったのかも興味深い。
天使サマエル(グノーシスの神話)説
キリスト教の異端の一派である神秘教団グノーシス主義。
グノーシス教団に伝わる神話では、世界を創造した「天使サマエル」がサタンの正体であるとされている。
キリストの兄・サタナエル説
イエス・キリストにサタナエルという双子の兄がいて、実はこの兄がサタンだという説もある。
これは、「ポゴミール派」というキリスト教の異端の一派が主張した説だ。
悪魔の王を表すただの階級名である説
実はサタンという固有の悪魔は存在せず、たんに悪魔たちを統率するものを表す階級名なのではないかという説もある。
どの説も魅力的で興味深く、1つに決めることなど野暮というものだ。
もともとサタンは悪魔という意味ではなかった?
そもそも、サタンはヘブライ語で以下の意味をもつ言葉「Shatana」が語源になっているとされる。
- 敵
- 反対する者
- 障害物
サタンは古代ユダヤ民族の信仰の中に登場し、初期の頃にはそこまで邪悪な存在として描かれてなかったと考えられている。
例えば、旧約聖書の「民数記」や「ヨブ記」のエピソードでは神の協力者として描かれている。
新・旧聖書の中で語られるサタン
サタンは、新・旧の聖書の中で語られている。
いくつかのエピソードをご紹介しよう。
旧約聖書の創世記
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三大宗教の共通の聖典である「旧約聖書」。
旧約聖書の最初の書である「創世記」では、蛇の姿に変身したサタンは最初の女であるイブにウソをついて騙し、神から食べる事を禁じられていた「善悪の知識の実」を食べさせる。
サタンは人類の敵だとパウロは言っている。
旧約聖書の民数記
旧約聖書の「民数記」では、とある旅人を快く思わなかった神が、サタンに旅人を妨害するように命じたという。
旧約聖書のヨブ記
旧約聖書の「ヨブ記」では、サタンは神の協力者として登場する。
あるとき、神はヨブという人間の信仰心が本物か試すことにした。
そして、さまざまな試練をヨブに与えるようサタンに命じるのだった。
- 家畜をすべて殺す
- 財産を奪う
- ヨブを皮膚病にする
ヨブは、このような理不尽な試練を受けても、信仰心はいっさい揺るがず、最後にはすべてを取り戻した。
初期のユダヤ教では神とサタンは協力関係にあり、光と闇の壮大な戦いを繰り広げているわけではなかった。
という名前の意味のとおり、人間に試練を与える者として描かれていたのだ。
新約聖書のマタイによる福音書
時が経ち、キリスト教が誕生すると、新約聖書「マタイによる福音書」ではサタンは蠅の王ベルゼブブと同一視されるようになる。
ヨハネによる福音書
おなじく新約聖書の「ヨハネによる福音書」では、
- 偽りの者の父
- 人殺し
とされ、サタンは徹底的にダークサイドプリンスとして描かれるようになった。
まとめ
時は過ぎ、キリスト教の学問である神学が発達すると、サタンは「悪」であるという解釈がますます加速した。
その結果、その正体に辿り着くことがないまま、悪の代名詞となったサタンは悪魔の王にして地獄の支配者であるという説が一般に広まったようだ。
伝言ゲームは、最初のキーワードからスタートし数人、数十人へと言葉が伝達されるごとにそのキーワードは変貌していき、まったく別のものになってしまうこともある。
サタンの正体とは何なのだろうか。