図書館を散策中、つい目がとまり、手に取ってしまった本「日本国の正体」。
進化か退化か知らないが、ソッチ系のブログとかやっているうちに「○○の正体」みたいなタイトルに敏感に反応する体になってしまった。
この本は2009年、今から10年以上前に出た古い本だ。
本当の意味でこの国を支配しているのは、政治家か官僚かメディアか、それ以外か。
『日本国の正体』の著者「長谷川幸洋」氏
著者の長谷川幸洋氏は、日本のジャーナリストでかつては中日新聞、東京新聞などで新聞記者や論説員をつとめていた。
また、「週刊ポスト」や「現代ビジネス」などの週刊誌でコラムを連載していたり、ネット情報番組の「ニュース女子」の司会でもおなじみだ。
現在は、以前から親交のある元財務官僚で経済学者の高橋洋一氏とyoutubeチャンネルをやっている。
各章の見出しのタイトル
本書は、全5章の構成で「あとがき」までを入れれば、221ページのボリューム。
長谷川氏は元新聞記者であるが、文体に新聞を読むようなカチカチな読みづらさは無く、話を聞いている感覚でスラスラ読めた。
第1章 官僚とメディアの本当の関係
- 新聞は何を報じているか
- 不可解な事件
- 霞が関の補完勢力になった新聞
- 転向の理由
- 政権を内側からみるということ
第2章 権力の実体
- 政治家と官僚
- 「増税」をめぐるバトル
- 財務官僚の変わり身
- 福田首相の本心
- 事務次官等会議
第3章 政策の裏に企みあり
- 「政策通」の現実
- カネは国が使うべきか、国民が使うべきか
- 定額給付金は「ばらまき」か
- 「官僚焼け太り予算」を点検する
- 政策立案の手法
- 「専務理事政策」とはなにか
第4章 記者の構造問題
- 記者はなぜ官僚のポチになるのか
- 真実を報じる必要はない?
- 「特ダネ」の落とし穴
- 記者は道具にすぎない
- 官僚にとっての記者クラブ
第5章 メディア操作を打破するために
- 霞が関幻想
- 先入観としての「三権分立」
- 「政府紙幣発行問題」の顛末
- 記者が陥る「囚人のジレンマ」
- 報道の力を取り戻すために
あとがき
『日本国の正体』の気になるポイント
この日本は、議院内閣制ではなく官僚内閣制といっても過言ではないという。
自覚のあるなしに関わらず、日本を実質的に支配しているのは霞が関に潜む官僚たちなのだ。
建前では、官僚は政治家にこき使われる存在として世間一般に広く認知されている。
しかし、政治家も新聞記者も官僚に逆らえずにコントロールされているところを長谷川氏は記者生活の中で見てきたという。
本書では、政治家と官僚とマスコミの関係性やポチに成り下がった新聞が報道機関として今後どうあるべきなのかが記されている。
不可解な事件
各章の見出しのタイトルを眺めていると、いろいろと興味深い内容がならんでいるが、特に気になったソッチ系の内容を取り上げてみたい。
2009年2月から3月にかけて、長谷川氏の目には「何かがおかしい妙だ」と思えるような事件が立て続けに起きたという。
それが以下の3つの事件。
- 中川昭一財務相の朦朧会見
- 小沢一郎民主党代表秘書逮捕
- 高橋洋一の窃盗事件
①中川昭一財務相の朦朧会見
「中川昭一財務相の朦朧会見」は、2009年2月14日に起きた有名な事件。
この事件は、当時世の中のことにこれっぽちも興味の無かった筆者ですらよく憶えている。
中川昭一財務相は、イタリアのローマで開かれた先進7か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)に出席して、酩酊状態で会見に臨み、その後「朦朧会見」の責任を問われ辞任した。
中川大臣の酒好きは有名で公の席でもたびたび酩酊状態をさらしていたため、この事件も中川大臣の個人的な不始末としてマスコミには扱われた。
長谷川氏は本書で、この事件は本当に中川大臣の酒癖の悪さが原因だったのかと疑問を抱いている。
一部では、「財務省の陰謀説」が報じられていたという。
それは財務省がなんらかの意図をもって、中川大臣を罠にハメたのではないかという疑惑である。
帰国後におこなわれた記者会見でも、イタリアで中川氏と食事の席に同席した財務官僚が飲酒していると知りながら会見への出席を黙認した件についての責任を追及された。
②小沢一郎民主党代表秘書逮捕
2009年3月3日には、当時民主党の代表をつとめていた小沢一郎氏の第一秘書が西松建設からの献金に絡み、政治資金規正法違反容疑で逮捕された。
この秘書は2003~2006年にかけてダミーの政治団体名義で2か所から献金を受け取り、政治資金収支報告書に虚偽の記載をおこなったとされる。
民主党が近い将来、総選挙で圧勝することは世論調査を見ても明らかだっただけに、この事件が民主党に大ダメージを与えたのは間違いない。
政治への影響を嫌うと言われる検察が総選挙前のタイミングで事件に着手したことについては検察OBからも疑問の声があがっていた。
そして、この事件について当時官房副長官だった漆間巌氏が「事件は自民党には波及しない」と発言したことで、やはりこの事件は初めから野党をターゲットとした政治的捜査だったのではという疑惑が深まっていった。
③高橋洋一の窃盗事件
2009年3月30日には、当時、元内閣参事官だった高橋洋一氏が財布と高級腕時計を盗んだとして、窃盗容疑で書類送検された。
長谷川氏は高橋氏と以前から親交があるため、友達を庇っていると思われるかもしれないがと前置きしたうえで、この事件が冤罪だというつもりはないが、釈然としない何かを感じていると語る。
高橋氏は事件が起きるずっと前から、長谷川氏に「霞が関はオレを狙っている。あなたも気を付けた方がいい」と何度も忠告していた。
高橋氏は「小泉・安部政権」で改革を推進するブレインであり、郵政民営化、政策金融改革、公務員制度改革などの提案により、財務省から「3度殺しても足りない男」と言われていたという。
事件が起きた直後、霞が関や永田町では「高橋には昔から盗癖があった」という噂がどこからともなく流れていたが、長谷川氏の知る限り、高橋氏は高級時計への関心などなかったという。
政府紙幣発行問題
長谷川氏は第5章の「政府紙幣発行問題の顛末」で、前述した「不可解な事件」に登場した中川昭一大臣と高橋洋一氏の事件には財務省が関与していたのではと推察している。
高橋氏は中川大臣の朦朧会見事件が起きる少し前に「政府紙幣発行」に関する政策を政権に提案していた。
高橋氏は経済危機が深刻化するのを予測し、「政府紙幣を発行して景気対策に使えばよい」という政策を唱えていた。
2009年1月、安部元首相と菅義偉自民党選対副委員長に会い、直接政策を提案すると安部、菅両氏は前向きに応じたという。
とくに菅氏の動きは早く、出演したテレビ番組で政府紙幣に非常に興味を持っていると語り、すぐさま議員連盟を結成し初会合を開いた。
高橋氏が講師役を務めた議員連盟は「政府紙幣および無利子国債の発行を検討する議員連盟」と名付けられた。
菅氏と安部氏は、高橋氏から政府紙幣発行に関するレクチャーを受け、水面下で麻生首相に政府紙幣案についての説明をおこなっていた。
こうした政権与党の動きに財務省は神経を尖らせていたという。
菅氏のもとには財務省幹部が訪れ、「政府紙幣発行は難しい」と反対意見を述べて釘を刺し、高橋氏に対しても「あなたが政府紙幣発行を提案したのか?」と探りを入れていた。
その矢先に起きたのが、中川大臣の朦朧会見事件であるという。
中川氏は、当時、麻生首相にもっとも近いグループ「NASAの会」のメンバーの一人だった。
NASAの会とは「中川・安部・菅・甘利」の頭文字をとった呼称である。
安部と菅の2人が政府紙幣の推進に本気で傾けば、中川も同調するのは目に見えていた。
だから、財務省は、なんとしてもこの企みを阻止する必要があったのだ。
朦朧会見と窃盗事件の間にワンクッション入れた理由
これは、この本に無関係な私的な考察なのだが、「中川大臣の朦朧会見事件」と「高橋洋一氏の窃盗事件」の間に「小沢民主党代表秘書逮捕事件」が入っていることに何となく違和感を感じるのだ。
つまり、一連の事件が自民党を狙い撃ちしたものだと悟られせないためではないのかと。
もし、朦朧会見事件と窃盗事件だけしか起きていなかったら、「ひょっとして仕組んだのは○○じゃないのか?」とすぐに感づかれる可能性が高いからだ。
朦朧会見事件と窃盗事件には何の関連もなく、たまたま偶然起きた事件であり、ある組織が政府紙幣発行を阻止するために仕掛けたものではないと思わせるために、あえて何の関係もない民主党がらみの事件を表に出す必要があったのではないか。
民主党の汚職事件を検挙するだけなら、なにもこのタイミングである必要はないのだから。
あとがき
財務省は政府紙幣に反対だった。
というのも、景気対策を政府紙幣でおこなえば、赤字国債を発行する必要がなくなるからだ。
政府紙幣は財務省のバランスシートの上では債務になるが、国債を発行するわけではないので、償還する必要もなく、財政赤字は増えない。
財務省は財政赤字が大きくならないと増税する口実が無くなるので、政府紙幣の発行はめっさ困るのだ。
すなわち、増税を邪魔するものはこれすべて敵。
この時、無事に政府紙幣が発行されていれば、今の日本の状況も少しは違ったものになっていたかもしれない。
25年のデフレで歩みを止めた日本社会は今、退化の一途を辿っている。