一般市民は、私たちが想像する以上に原始的である。したがって、プロパガンダは常に単純な繰り返しでなくてはならない。結局、諸問題を簡単な言葉に置き換え、識者の反対をものともせずに、その言葉を簡明な形で繰り返し繰り返し主張し続けることができる人だけが、世論に影響を与えるという最終的な結果を残せるのだ。
ナチスドイツ宣伝大臣 ヨーゼフ・ゲッペルス
戦争のプロパガンダでは敵の方が自分たちよりも、より残虐だと強調される。自分たちの行為はひとまず棚に上げ、敵の攻撃だけを異常な犯罪行為として、血も涙もない悪党だとする印象操作がおこなわれる。
また、印象操作の仕掛けが見られるのは何も戦争の中だけでなはなく、われわれの社会生活の中にも潜んでいる。
これまでの戦争で敵国の残虐性をアピールするために、どのようなプロパガンダがおこなわれてきたのだろうか。
- これまでの戦争で行われてきたプロパガンダ(印象操作)について
ペスト菌とコレラ菌を井戸にバラまいた
第一次世界大戦時、ドイツは「蜂起したベルギーやフランスの義勇軍が残虐行為におよんでいる」と非難し、彼らを悪魔に仕立て上げる過激なプロパガンダをおこなった。
軍のコントロール下にあった「ドイツ人記者クラブ」は、次のような噂話をそのまま記事にしていた。
- ベルギー人の司祭が祭壇の裏に隠している機関銃でドイツ人を銃殺する
- 指輪をはめたドイツ人の指を切り落として首飾りにしている
- ドイツ人に対して毒入りのコーヒーをふるまう
さらに、フランス人医師と2人の将校がフランスとドイツの国境の町メッツで「井戸にペスト菌とコレラ菌をバラまいた」と報じる新聞の記事もあった。
当時、このおぞましい話を聞いたドイツ兵たちはすべてのベルギー人とフランス人を極度のサディストだと思ったにちがいない。
手を切断された子供たち
第一次世界大戦時、連合国側のもっとも上手くいったプロパガンダに「手を切断された子供たち」の話がある。
1914年から1915年にかけて「ドイツ兵がベルギー人の子供の手を切断する残虐行為をおこなった」というエピソードだ。この「手を切断する」という言葉は世界各地に広がり、連合国が「野蛮人に対して裁きを下すための戦いだ」という動機となり国民感情に影響を与えた。
当初、この噂は政府のプロパガンダとは無関係だったが、ドイツ兵の残忍さを印象づけることに利用された。アメリカにとっても、ベルギー難民と「手を切断された子供たち」の報道は、欧州戦争に介入するための世論誘導に一役買った結果となった。
ベルギーの政治家たちは、イタリア各地で「手を切られた子供たち」の話を繰り返すことで、イタリア国民に連合国側に加わり参戦することを訴えた。当時のイタリア財務大臣でのちに首相になったフランチェスコ・ニッティは回想録の中で「手を切断された子供たち」について次のように語っている。
「ドイツ兵に手を切断されたかわいそうなベルギー人の子供がいるという。終戦後、フランスのプロパガンダに心を動かされたアメリカ人富豪が手を切られた子供と会って話がしたいと、密使をベルギーに派遣した。ところが、誰一人として実際の被害者を見つけることができなかった。当時首相をつとめていた私もロイド・ジョージも名前や場所が特定されていたいくつかのケースについて、この報道の信憑性を確かめるべく詳細を調査してみたが、いずれのケースも作り話であることが判明した」
ナイラ証言
湾岸戦争での有名なプロパガンダ事件に「ナイラ証言」というのがある。
これは、アメリカがクウェート侵攻に介入する際、国民の支持を得るために広告会社「ヒル・アンド・ノウルトン」を利用しておこなったプロパガンダだ。
命からがらクウェートから逃げてきたナイラは、「保育器を盗もうとしたイラク兵が中にいた未熟児を放り出し多くの幼児が虐殺された」と涙ながらに語った。だが、そんな彼女の正体は当時のクウェート駐米大使サウド・ナシール・アル・サバ の娘だった。
のちに、彼女が広告会社ヒル&ノウルトン社の副社長ローリー・フィッツペガドから直接演技指導を受け、嘘の証言をおこなったことが判明している。
パパブッシュ(第41代アメリカ大統領ジョージ・H・W・ブッシュ)は、国会や国連の演説の場でこの「赤ん坊殺し」のエピソードを繰り返し引用することで湾岸戦争を肯定する世論づくりに利用した。
目の前で妹を殺されたアルバニア人の少女
1998年から1999年にかけて、バルカン半島南部のコソボを舞台にユーゴスラビア軍、セルビア人、アルバニア人、NATOなどの諸勢力が激突した「コソボ紛争」においても、カナダのテレビ局がプロパガンダに引っかかっていた。
CBCカナダ放送協会のジャーナリスト、ナンシー・ダラムは、いくつかのテレビ番組で「目の前で妹を殺されたアルバニア人の少女ラジモンダ」の映像を流し、エピソードを紹介した。
だが、その後の調査で「ラジモンダの家族は全員存命」で、コソボ解放軍のメンバーだったラジモンダがまったくの作り話をしていたことが判明した。
プロパガンダに引っかかり、ショックを受けたナンシー・ダラムは番組でフェイクニュースを流してしまったことを視聴者に詫びようとしたが、少女の映像を流したテレビ局は「訂正とお詫び」の放送することを頑なに拒んでいたという。
言葉の置き換えによる印象操作
自国の陣営 | 相手の陣営 |
---|---|
空爆 | 空襲 |
領土の解放 | 占拠 |
民族の移動 | 民族浄化 |
墓地 | 大量虐殺・死体置き場 |
情報 | プロパガンダ |
ことに戦争に関する言葉のイメージは大きな影響力を持つため、言葉の置き換えによる印象操作が当たり前のようにおこなわれている。
たとえ戦場で同じ行動をとったとしても、「自国の陣営」と「相手の陣営」では互いに都合の良いように言葉が置き換えられる。
NATOがコソボ紛争に介入すると、西側メディアは「空襲」の代わりに「空爆」という言葉を使うようになった。その理由は「多くの人が空襲という言葉に残虐なイメージを持っているから」だ。
そこには別の言葉に置き換えることで、敵国の残虐性を強調するだけでなく、自国の世論の戦争に対するマイナスイメージを払拭する狙いがあるのだ。
- アンヌ・モレリ著「戦争プロパガンダ10の法則」
- A・プラトカニス/E・アロンソン著「プロパガンダ」
- ギュスターヴ・ル・ボン著「群集心理」
あとがき
戦争以外でも、このような「言葉の置き換え」によって印象操作をおこなっている例がある。言い換えることで国民が勝手に勘違いしてくれるので政府としては狙いどおりなのである。
- 謎の注射 → ワクチン
- 軍事費 → 防衛費
- 戦争法 → 安保法
- 副作用 → 副反応
- 陽性者 → 感染者
- 消費税(企業が払う直接税) → 消費税(消費者が払う間接税)
- 墜落 → 不時着水
- 裏帳簿(二重帳簿)→ 2種類の書類(2種類の帳簿)
- キックバック → 還流
- 中抜き・横領 → 留保
- 凍死 → 低体温症で死亡
- 国債発行 → 赤字国債(わざわざ赤字を付けて印象操作こざかしい)
- 派閥 → 政策集団
- 政治改革 → 政治刷新
- 裏金 → 還付金(問題の深刻さと脱税行為を隠蔽する狙い)
- 裏金問題 → 納税問題(メディアは裏金問題を納税問題にすり替えようとしていないか)
- 政倫審をマスコミオープン → もはや意味不明
戦争以外の例と言ったが、現在ミサイルの代わりに注射器を使った「静かなる攻撃」を受けているとするなら、これは形を変えた戦争なのかもしれない。