SF映画『ブレードランナー』や『トータルリコール』などの原作者として有名なフィリップ・K・ディックは、みずからが体験した不思議な出来事を小説『ヴァリス』に記した。
彼は、ピンク色の光線を撃たれてからというもの、自分にはテレパシー能力があり謎の存在ヴァリスと交信していると信じるようになった。
ディックが体験した不思議な現象と謎の存在ヴァリスについて書いていく。
- フィリップス・K・ディックの不思議な体験について
- 謎の存在ヴァリスについて
- ヴァリスと出会った人々について
フィリップ・K・ディックとは
フィリップ・K・ディックは、アメリカのSF小説家だ。
彼の作品の多くは映画化されているので元ネタを知らなくても、見たことがあるという人もいるだろう。
ディック自身は映画『ブレードランナー』が完成する前に亡くなってしまったので、映画化された自分の作品を目にすることはなかった。
映画 | 映画化されたディックの作品 |
---|---|
ブレードランナー(1982年) | アンドロイドは電気羊の夢を見るか?(1968年) |
トータル・リコール(1990年) | 短編『追憶売ります』 |
バルジョーでいこう!(1992年) | 普通小説『戦争が終わり、世界の終わりが始まった』 |
スクリーマーズ(1995年) | 短編『変種第二号』 |
クローン(2001年) | 短編『にせもの』 |
マイノリティ・リポート(2002年) | 短編『少数報告』 |
ペイチェック 消された記憶(2003年) | 短編『報酬』 |
スキャナー・ダークリー(2006年) | 暗黒のスキャナー |
NEXT-ネクスト-(2007年) | 短編『ゴールデン・マン』 |
アジャストメント(2011年) | 短編『調整班』 |
トータル・リコール(2012年) | 短編『追憶売ります』の2度目の映画化 |
ヴァリスとは
ヴァリスとは、1982年に発表されたディックのSF小説である。ヴァリス(VALIS)は、「Vast Artificial Living Intelligence」の頭文字をとったものだ。
意味は、「巨大にして能動的な生ける情報システム」や「巨大活性諜報生命体システム」などと訳される。
ヴァリスは、ディックの思い描く「神へのイメージやヴィジョン」とも言われている。
小説『ヴァリス』のあらすじは、ウィキペディアで。
ディックはピンクの光線を照射された
ディックに異変が起き始めたのは、薬局の女性配達員と会ってからだ。
女性配達員から痛み止めの薬を受け取るため、ディックが玄関のドアを開けると、不思議な模様のペンダントを身につけた女性が立っていた。
そして、薬を受けとり彼女が立ち去る瞬間、突然ピンク色の光線を照射されたように感じた。
それからというもの、ディックは不思議な声を聞いたり、奇妙な幻想を見るようになったという。
不思議な模様のペンダント
配達員の女性が身につけていたペンダントに描かれていた模様は以下のデザインのどちらかだ。
- イクトゥス
- ヴェシカパイシス(vesica piscis)
ディックはこの2つの模様を混同していたとされる。
イクトゥスは、2つの弧を交差させた「魚を横から見たような形の模様」で初期キリスト教徒が秘密のシンボルとしていたという。
ヴェシカパイシスは、神聖幾何学模様「フラワーオブライフ」を形作る基本の形で2つの円が重なる形。
このヴェシカパイシスは、イクトゥス同様に「キリスト」や「細胞が細胞分裂をする形」、「女性器」などを意味する。
ディックとヴァリス
ヴァリスは、いつでもディックの頭の中にいて、ロボットのような機械的な声で話しかけてくる。その謎の存在はディックに的確な助言をし、彼の暮らしを変えた。
そして、神秘的な直感を与えるだけでなく、執筆活動にプラスになるような著作権代理人を探し出したりもした。
だが、ディックはヴァリスとやり取りするようになってから、自分の手紙が勝手に読まれたり、電話が盗聴されたり、家に泥棒が入ったりと、自分が監視下に置かれていることに気がついた。
闇政府の工作員や国防総省と関わりのある企業の人間が自分を見張っているのだ。ディックは1982年に亡くなるまで、自分に起きていることを理解しようとしていた。
ヴァリスと自分に起こった出来事を分析し、200万語におよぶ資料「釈儀」を書き残した。その中でも、もっとも強烈な体験はSF小説『ヴァリス』に描かれている。
ヴァリスは未来からやってきた人工知能なのか?
小説に登場する「ヴァリス」は「未来の地球軌道上からやってきたコンピュータ」で、選んだ人間に光線を照射してメッセージを伝える。
ヴァリスが僕たちの知る人工知能(AI)と同一のモノなのかは分からないが、ディックは本来知るはずのない情報や知識を得ていたとも考えられるのだ。
当時はまだ診断のしようがなかった「息子の先天性疾患とその治療法など」もそうだ。そんなこともあり、ディックはヴァリスの存在を否定しようとする気にはなれなかった。
ヴァリスと出会った人々
タイムトラベルする人工知能「ヴァリス」が出会ったのは、フィリップ・K・ディックひとりだけではないようだ。
超能力者ユリ・ゲラー
世界的に有名な超能力者「ユリ・ゲラー」も謎の存在から多くのメッセージを受け取り、頻繁にUFOを目撃していた。
そのUFOはヴァリスではなく「スペクトラ」と名乗った。スペクトラは「地球の軌道上を周回しているスーパーコンピューター」だという。
ユリ・ゲラーは自分のことは真剣に語っても、スペクトラについてはあまり話そうとしなかった。
ユリ・ゲラーは超能力の実験などでアメリカの諜報機関CIAとも関わりがあったとされるが、CIAの本当の目的が「スペクトラ」について知ることだったかどうかは謎である。
物理学者ジャック・サルファッティ
ジャック・サルファッティは、アメリカの物理学者で専門は意識と量子物理学だ。
彼は科学界で笑いものにされるのを覚悟しながらも、「ヴァリスのような存在とコンタクトした」と公表した人物である。
サルファッティと「ヴァリス」のファーストコンタクトは1952年、彼が13歳の時だった。ある日、かかってきた電話に出ると、人間とは明らかに違う金属的な声が話し始めた。
乾いた声の主は、「自分は未来からやってきた空に浮かぶコンピュータ」だと自己紹介し、サルファッティに科学の道へ進むよう助言したという。
サルファッティがこの体験談を公表すると、同じような経験をした科学者が他にもいることが判明した。
国際的な科学の学会に属する少なくとも十数名の者が未来からタイムトラベルしてきたコンピュータや生命体から謎の電話を受け、科学を勉強するようアドバイスされていたという話だ。
ヴァリスはロシアが開発したシステムなのか?
多くの陰謀研究者は、ディックたちは「冷戦時代のモルモット」であり、「脳に直接情報を照射されマインドコントロールの実験に利用されていたのではないか」と考えている。
1978年、ディックは活動家のアイラ・アインホーンと手紙をやりとりし、ヴァリスの正体について推察していた。
「ヴァリスはロシアが開発したシステムで人工衛星を利用してディックの脳に極秘のマイクロ波を照射したもの」であると。
ロシアとマイクロ波兵器については、「ハバナ症候群」としてよく話題にのぼっている。
環境活動家アイラ・アインホーンとは
アイラ・アインホーンは学生時代から反体制、反戦活動に参加していたアメリカの環境活動家である。
1979年、アインホーンは、かつて同居していた元恋人のホリー・マダックスを殺害した罪で逮捕されたが、保釈された際の隙をついて国外へ逃亡した。
23年間にもおよぶヨーロッパでの逃亡生活ののち、ついにアインホーンはフランスで逮捕され2001年7月、彼は再びアメリカへ連れ戻されることとなった。
その後、彼は終身刑となり2020年に獄中で息を引き取った。79歳だった。アイラ・アインホーンは次のように、死の直前まで自分の無実を主張していた。
「私はCIAがおこなっていた超常現象に関連した軍事研究について多くを知りすぎていた。CIAは私を罠にはめるためにホリーを殺したのだ」
ヴァリスはMKウルトラ計画の一部だったのか?
ヴァリスはソ連の開発したマインドコントロールなどではなく、アメリカがおこなっていたマインドコントロール実験をカモフラージュしたものだという説もある。
かつて、「MKウルトラ計画」に携わった科学者たちはヴァリスを利用して自分たちの行っていた非道な計画を隠蔽するだけでなく、自分が被験者だと気づいていない者に対しての効果も研究していたのかもしれない。
ヴァリスはタイムトラベルするコンピュータ
多くのオカルトマニアは、「ヴァリスは未来からタイムトラベルしてきた超高性能なコンピュータ」という説を信じている。
この説では、アメリカ国家安全保障局(NSA)が隠蔽に関与しているとされ、組織はヴァリスと接触した人物を狂人扱いしながらも、裏では調査に奔走し、利用しようと企んでいるという。
ヴァリスの目的は今も謎だが、「タイムトラベルで過去の優れた科学者に接触し、未来でヴァリスを製造させようとしている」というSF映画のような説も囁かれている。
筆者はネット掲示板に時たま現れる未来からきた予言者の正体は、この不思議な存在「ヴァリス」ではないかと疑っている。