近年、日本の大手自動車メーカーから発売された車が世界的にヒットした。当然この日本でもトップの販売台数を誇っている。

しかし、いつの頃からか、この車に乗るドライバーのマナーの悪さが指摘されるようになった。

通常、危険運転するドライバーがいたとしても特定の車の名前を出して、一緒に批判されたりすることはあまりない。

しかし、この車に限っては当然のごとくそれがあったりする。それほど、この車のドライバーの運転マナーが酷すぎるのだ。ついには、「〇〇ミサイル」などと揶揄されている始末である。

動画投稿サイトに、さらす目的でアップロードされた動画には大抵、この車の危険運転や交通違反が記録されている。

この車は発売されてから数回のモデルチェンジを経て、もうすぐ30年になるロングセラーである。

不思議な事もあるもので、世界中で売られているにもかかわらず、何故か日本でだけ、この車の事故が多かった。

いつしか世間では、この車にまつわる妙な噂話というか都市伝説のようなものが語られるようになった。

それは、この車に搭載されているモーターから特殊な電磁波が出ていて、その電磁波が運転手に何らかの悪影響を与えるというものだ。つまり、電磁波の影響で一時的にパニクッたドライバーが暴走運転しているのだ、と。

この車の海外で販売されているものについてはメーカーがあらかじめドライバー保護のためモーターと運転席の間に特殊な遮蔽板しゃへいばんを設置しているので、ドライバーに対する電磁波の影響はほぼ無効化されているという。そのせいもあってか、海外ではこの車の事故が極端に少ない。

幼馴染おさななじみのKは、この自動車メーカーの設計部に勤めている。今日の仕事帰りに、そのKと久々に居酒屋で飲んでいる。それとなく、Kにその車〇〇の話を振ってみた。

「そういえば、〇〇の事故は相変わらず多いな。ネットじゃ〇〇のドライバーの危険運転の動画が毎日バズってるぞ」

「そりゃ、この国トップの販売台数だぜ。乗ってる人の分母がデカいんだ。事故や違反、危険運転が他の車より目立つのは仕方ない。そもそもそのドライバーに適性がないか、マナーがなってないだけなのに。ウチや〇〇は関係ない」と軽くビールが入ったKは饒舌じょうぜつに語りだした。

「うん、でもまあ素人目に見ても〇〇の危険運転が異常に多く感じるんだよな。ユーザーみずから愛車のネガキャンするなんてのは、とても正気の沙汰とは思えないよ。最近じゃミサイルとか呼ばれてる」と僕も少々、反論気味に返した。

「あれは動画投稿サイトの影響もあるんだよ。他の車のドライバーだって事故や違反、危険運転を毎日のようにやってる。なのに〇〇だけの動画を投稿しまくって槍玉に挙げて面白がってるふしがある。あれは嫌がらせに近いよ」

「確かにメーカーからしたら貰い事故みたいなもんだな。ところで〇〇の次のモデルチェンジでは例の電磁波よけの遮蔽板はつくのか?アレついてないの日本のだけだろ?」

「電磁波だって?どっから聞いてきたんだよ、そんな都市伝説?車から毒電波でも出てるって言いたいのか?」そう言ってKは吹き出しそうになるのを堪えて、中ジョッキのビールを口に運んだ。

「いや〜、車の情報サイトの掲示板じゃ定期的に話題になるネタだからな」とオレは中指でぽりぽりと旋毛つむじのあたりを掻きながらそう答える。

「実はさ、アレももう発売されてから30年も経つんだけど、まだ当初の予定まで人口も減ってないし、潜在的な危険運転ドライバーの炙り出しも終わってないんだよね。最終的にはAI搭載してダメ押しすると思うんだけど。まだプロジェクトは継続中だな。だからまだ当分の間は電磁波よけの板は入れないみたいだよ。だってさ、こないだの〇〇ナ騒動の時の〇〇〇ンの方が実績上げちゃったからさ。結構減ったじゃない人?政府は今後アッチをメインでやっていくみたいな噂もちらほら出ててさ。参っちゃうよな・・・。な〜んて話をすればお前は満足なのか?相変わらずお前はこの手の話が好きだな」とKはとうとうこらえることができずに大笑いしていた。

お堅い仕事をしているがKは案外ノリが良い。中ジョッキの2杯目を空にしてほろ酔いの気分の僕も一緒になって大笑いしていた。

酔っ払うと、どんな類いの話でも面白くて笑い上戸になってしまう。箸が転がっただけでも可笑しくて仕方がないのだ。これは酔って暴れて悪態をつく酒乱とは違う良い酒だ。

腹が減っている時には何を食べても美味しく感じるのと少し近い感じかなあ、なんて的外れな思考を巡らしているうちに、気づくといつの間にか朝になっていた。

今日もまたこんな夢をみた。ちなみにKとは夢の中でしか会ったことがない。