戦争にまつわる都市伝説、陰謀論の1つに「湾岸戦争症候群(Gulf War Syndrome)」というものがある。
1990年から1991年にかけて起きた湾岸戦争。この戦争に従軍したアメリカ軍やイギリス軍などの多国籍軍兵士のあいだに集団発生したとされる原因不明の症状の総称である。
湾岸戦争症候群は、ひどい苦痛を伴うため、多くの患者が重度のうつ状態になり自殺するケースもある。だが、アメリカをはじめ多くの政府は湾岸戦争症候群の存在自体を否定している。
湾岸戦争の終結後、帰還した米兵約70万人のうち5000人から8万人が発症したとされる。この謎の症状を引き起こすGWS(湾岸戦争症候群)とは何なのか?
湾岸戦争症候群の主な症状
湾岸戦争症候群の主な症状には次のようなものがある。
- 慢性疲労
- 倦怠感
- うつ状態
- 極度の衰弱
- 頭痛
- めまい
- 重度の関節痛
- 筋肉痛
- 脱毛症
- 寝汗
- 神経系の障害
- 癌
- 白血病
- 急激な体重減少
- 下痢
- 不眠
- 異様な発疹
- 不可解な性格の変化
- 認識力(記憶、思考力、集中力、注意力)の低下
- 勃起障害
湾岸戦争症候群の原因
湾岸戦争症候群の原因と考えられているものは以下のようになっているが、いまだ特定に至っていない。
- 伝染病
- 殺虫剤
- 油田火災の黒煙
- イラクの生物化学兵器
- 石油流出による大規模環境汚染
- 生物兵器防御用の強制予防接種
- 神経ガス防御用に強制投与された試薬
- 劣化ウラン弾・装甲に使用した劣化ウランによる放射能被ばくや重金属としての化学的毒性
強制予防接種説
生物化学兵器攻撃が実施されることに備え、兵士は神経ガス対策用の錠剤の服薬や予防接種を強制された。
配給された錠剤は臭化ピリドスチグミンとされている。FDA(アメリカ食品医薬品局)は臭化ピリドスチグミンを神経ガスの影響を予防するために用いることを承認している。
また、炭疽菌ワクチン接種は命懸けで、誰もが不安に駆られていた。国防総省がワクチンは全て安全だと説得しても信じられず、生物兵器の攻撃を受けた方がマシと考えていた者もいたという。
生物兵器説
湾岸戦争症候群は生物化学兵器が原因とする説もある。
それは自然界には存在せず、実験室でしか作れない特徴を備えたウイルスだった。その人工ウイルスの名は、マイコプラズマ・ファーメンタンス。別名インコグニタスという。
それは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の被膜遺伝子を多く含み、実験室で組み込まれたと思われる。
化学兵器説
アメリカ政府は劣化ウラン弾による健康被害を否定し、この症状はフセイン政権がかつて用いた化学兵器の残留物の影響という公式見解を発表した。
フセインは、第一次湾岸戦争では確かに大量破壊兵器を所持していた。
また、サリンなどの化学兵器を保管するイラクの武器貯蔵庫が爆撃され、そこから出る煙からも致死量の毒物が排出されていたとされる。
風に乗って砂漠に流れてきたそれらの毒素が連合国の兵士に悪影響を与えた可能性も高い。
劣化ウラン説
イラク戦争(2003年3月20日 – 2011年12月15日)の終結後も湾岸戦争症候群とよく似た症状を訴える帰還兵が現れた。
アフガニスタンでの被害も含め、2001年から2009年10月まで約14万人に同様の症状が出たとされている。
また、現地のイラク人にも癌や白血病、子どもの先天性障害が増加し、湾岸戦争症候群の再来ではないかとされ、その原因としてアメリカ軍が使用した劣化ウラン弾が挙げられた。
イギリスがウクライナへ劣化ウラン兵器を供与
2023年3月、BBC(英国放送協会)は、英国がウクライナへ劣化ウランの成分を含んだ武器供与の件について報じている。
イギリス政府は、装甲に劣化ウランを使用した主力戦車「チャレンジャー2」と劣化ウラン弾(劣化ウランを使用した徹甲弾)を供与したと認めている。
王立協会を含む科学者グループの調査では、劣化ウラン弾の使用が人体や環境へ被害を与える可能性は低いと指摘している。
劣化ウラン弾とは
劣化ウランとは、原発での核燃料の生成や軍事目的で濃縮ウラン(ウラニウム)を作り出す過程で発生する放射性廃棄物のことで、ほぼ純粋なウラン238の同位体である。
この物質は、わずかに放射性がある固形物で非常に硬く、比重が大きいので装甲や鋼鉄を貫く目的で弾丸に利用されている。
1990年、アメリカ軍は劣化ウラン弾を湾岸戦争で初めて使用し、イラク軍に壊滅的な損害を与えた。この砲弾は貫通力が高く、イラク軍の戦車をやすやすと破壊した。
ウラン238
劣化ウランの大部分を占めるウラン238は標的に命中すると、高温で燃焼し、放射性のちり(酸化ウランの微粒子)を発生させ周囲に拡散する。
そのため、万が一体内に取り込んだ場合は人体に何が起きるか分からないと危惧されており、内部被爆の危険性だけでなく、重金属としてのウランの化学的毒性が様々な健康被害を及ぼすと指摘されている。
このウラン238は、かつてはプルトニウムの原料になるとされ、資源価値を持っていた。しかし、今ではプルトニウム利用計画というものは世界各国で破綻しており、このウラン238という物質は単なる産業廃棄物という位置づけになってきている。
劣化ウランの利点
このウランを金属として扱った場合、物理的な特性としては比重が鉛の1.7倍、鉄の2.5倍で極めて大きく、非常に硬い金属である。
また、経済的な観点から言えば、廃棄物なので非常に価格が安いというのが利点である。
劣化ウラン弾が最初に使われたのは湾岸戦争
湾岸戦争当時、アメリカ軍はA10という航空爆撃機から対戦車砲の弾頭として、このウラン弾を使用した。
ウランは非常に硬く、鉄の融点よりも高い温度で燃焼するので、戦車の装甲をたやすく溶かし弾丸は中に入り込んで激しく燃焼し、乗員を焼き殺す。そのような効果をもった兵器である。
だがしかし、劣化ウランの効果はそれだけにとどまらない。爆発炎上したときに数ミクロンの大きさのウランの微粒子となり環境に噴出する。
これを吸い込むと、肺に沈着して重篤な健康障害を引き起こすことが知られている。
劣化ウランは地下水を汚染する
劣化ウラン弾は機関砲で戦車の周辺に撃ち込まれるが、戦車に命中するのは数発で、大部分のものはそのまま地面に突き刺さる。
コソボのケースでは、地面に突き刺さったウラン弾は地下1.5メートルから2メートルの深さまで到達していた。
しかも、衝撃は熱が発生するところまでには至らず、金属のまま地中に埋まっている。そのようなウラン弾を掘り出してみると、本来の大きさの半分ほどに痩せ細っているという。
つまり、地中に残ったウランという金属が水と接触することにより水溶性のウランとなり流れ出して地下水を汚染する可能性がある。
大量破壊兵器を使用して疑惑を罰する
劣化ウラン弾は通常兵器とされているが、その被害は「サイレント・ジェノサイド」ともいえる事態である。瞬間的ではないが、時間をかけて無差別に大量に被害が出るという点では大量破壊兵器といっても差し支えないのではないか。
米国はすでに広島と長崎に大量破壊兵器を投下し、戦後その犯罪を問われることはなかった。そして、湾岸戦争でも劣化ウラン弾を大量にイラクの大地に撃ち込み、それについても裁かれることはなかった。
さらに、イラク戦争においても性懲りもなく大量のウラン弾をイラクに撃ち込んでいる。アメリカは、イラクが調査に応じないのは大量破壊兵器を隠し持っているからだと疑い、それを理由に劣化ウラン弾を使った。
劣化ウランの問題は放射能よりも重金属の化学的毒性
兵士の多くは湾岸戦争症候群の原因が戦争に関連したものだと考えている。
劣化ウラン弾はイラクやバルカン半島などで使われた過去があり、癌や白血病、先天性疾患につながったとの主張も出ている。
いまだ湾岸戦争症候群の原因として認めてはいないものの、アメリカ国防総省はロシア・ウクライナ紛争において「ウクライナに劣化ウラン弾を供与しない」と表明している。
国際連合にある機関の1つUNEP(国連環境計画)は、2022年に発表した報告書で劣化ウラン弾の使用について次のような懸念を示している。
- 劣化ウランや一般的な火薬に含まれる有害物質は皮膚刺激や腎不全を引き起こし、ガンのリスクを高める可能性がある
- 劣化ウランの化学的毒性は、その放射能による影響の可能性よりも重大な問題と考えられている
あとがき
さまざまな症状を引き起こしている湾岸戦争症候群の原因は1つではないのかもしれない。
比較的症状の軽いものから重篤なものまで、この幅広い症状のすべてをたった1つの原因が引き起こしているというのは無理があるのではないか。
米国は湾岸戦争症候群の原因をイラクの武器庫にあった化学兵器(サリン)のせいにして、さっさとこの問題を闇に葬ろうとしているのではと勘繰ってしまう。
このスケープゴートの特定は、これまで症状を訴えても政府から無視され見捨てられてきた帰還兵たちを補償し救うためでもあるが、同時に騒ぐ者たちの口を塞ぎ、30年間もズルズルと長引いている問題にさっさと終止符を打つためとも考えられる。この研究に資金を提供しているのは米国政府である。