悪とは何だろうか?それは、君がしばしば目にしてきたものだ。すべての出来事について、「これは、君がしばしば目にしてきたものだ」と思い出せるようにしておくべきだ。
上を見ても下を見ても、いたる所同じものを目にすることになるだろう。古代から中世、現在にいたるまで、歴史にはそんな事例があり余るほどある。現在もまた、都市の中だろうが、家の中だろうが同じことだ。
新しいものなど、なに一つとして存在しない。すべてはお馴染みのものであり、いずれも束の間のものにすぎない。
マルクス・アウレリウス/自省録
2022年9月26日、天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の爆発が起きた。正確な原因は不明だが攻撃されたという見方が濃厚だ。
このロシアとドイツを結ぶパイプラインはヨーロッパ諸国に安価なガスを供給する要衝だった。
爆発が起きた場所はバルト海のスウェーデンの排他的経済水域(EEZ)である。
ロシアはパイプラインの爆発は西側の仕業だと非難し、国連の安保理事会に調査を求めている。
この爆破事件はの犯人は誰なのか?
ノルドストリームの現在
2010年4月 | ノルドストリーム着工 |
2011年11月8日 | ノルドストリーム1は稼働を開始しヨーロッパへのガス供給を開始 |
2021年9月10日 | ロシア企業ガスプロムがノルドストリーム2のパイプライン完成を発表 |
2022年1月31日 | 欧州委員会(EC)はノルドストリーム2の使用を保留 |
2022年2月22日 | ドイツのショルツ首相はロシアのドネツク、ルガンスク両共和国の承認を受け、ノルドストリーム2の計画停止を発表 |
2022年2月 | ロシアはウクライナ侵攻に対するヨーロッパ諸国の経済制裁に反発し、ノルドストリーム1のガス供給量を大幅削減 |
2022年3月 | 運営会社ノルドストリーム2AGが破産を検討しているとの報道に対し「破産申請の事実はない」と説明 |
2022年8月 | 保守点検を理由にガス供給を停止 |
2022年9月26日 | ノルドストリーム爆発 |
ノルドストリームはロシアとドイツをつなぐ天然ガスの海底パイプラインで、「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」の2系統で構成されている。
- 2022年2月・・・ドイツがノルドストリーム2を計画停止
- 2022年8月・・・ロシアがノルドストリーム1をメンテナンスを理由に停止
爆発前にはすでにノルドストリームは稼働停止していたため、ヨーロッパへのガス供給は停止していた。
ノルドストリーム1は、9月の爆発で約50メートルに渡り破壊され、ノルドストリーム1、2は計4つの穴があいたとしている。
ノルドストリーム爆破事件の犯人は誰なのか?
ノルドストリームを爆破したのは誰なのか?
その犯人については世界中のメディアでも様々な憶測が飛んでいる。
ニューヨークタイムズの報道
2023年3月7日、米ニューヨークタイムズは次のように報じた。
- 親ウクライナ派の犯行の可能性を示唆
- ゼレンスキー大統領などのウクライナ政府関係者の関与を示す証拠はない
- 破壊工作をおこなったのはウクライナ人かロシア人、またはその両方の可能性を示唆
ドイツの反応
2023年3月7日、ドイツ紙のディーツァイトはノルドストリーム爆破事件を次のように報じた。
- 爆破工作に使われたのはポーランドの会社が貸した小型ヨット
- 所有者は2人のウクライナ人
- 実行犯の国籍は不明
- ウクライナに責任をなすりつける偽旗作戦の可能性を指摘
ウクライナは関与を否定
ウクライナの大統領顧問は、同国政府は破壊工作に関与していないと声明を発表した。
シーモア・ハッシュの調査報道
世界的にも有名なジャーナリストのシーモア・ハッシュの調査報道によれば、ノルドストリーム爆破事件の犯人は米国とノルウェーの共謀となっている。
シーモア・ハッシュは、現在85歳になる米国のジャーナリストで「ベトナム戦争のソンミ村の虐待報道」でピューリッツアー賞を受賞したことで知られる人物である。
その他にも「ウォーターゲート事件にCIAが関与していたこと」や「イラク戦争で米軍がおこなった捕虜への拷問」などの暴露でも有名だ。
2023年2月8日、ハッシュ氏はノルドストリーム爆破事件についての記事『米国がノルドストリームパイプラインを手に入れた方法』を投稿した。
極秘作戦の黒幕はバイデンと外交政策チーム
極秘作戦の大本の黒幕は、バイデン大統領と彼の外交政策チームのメンバーである、ネオコン3人の名が挙げられている。
- ジェイク・サリバン国家安全保障顧問
- トニー・ブリンケン国務長官
- ビクトリア・ヌーランド政策担当・国務次官
ノルドストリーム爆破計画
ノルドストリームの爆破計画の立案は、各方面のメンバーで結成されたタスクフォースにより作成された。
- ジェイク・サリバン国家安全保障顧問
- 統合参謀本部
- CIA
- NSA
- 国務省
- 財務省
2021年12月、ロシア・ウクライナ紛争が始まる2か月前に破壊工作に関する極秘会議が開かれた。
場所は、ホワイトハウスに隣接するオフィスビルの最上階にある部屋だった。この部屋は大統領情報活動諮問会議(PIAB:President’s Intelligence Advisory Board)の拠点でもあった。
この会議でサリバンはノルドストリームの破壊がバイデン大統領の望みだと発言した。
米国とノルウェー
ノルウェーは冷戦初期の1949年、NATO条約の最初の調印国の一つで、現在のNATOの事務総長イエンス・ストルテンベルグは献身的な反共産主義者だった。
ストルテンベルグはノルウェーの首相を8年間務めていたが、ベトナム戦争以来アメリカの諜報機関に協力してきた甲斐もあり、2014年アメリカの支援を受けてNATOの高位のポストを得た。
ノルウェー海軍は深海の石油とガスの探索で豊富な経験を積んだ船員とダイバーを多く集めていた。彼らは口が堅く、秘密工作に関する情報漏洩のリスクも低かった。
彼らが計画に協力的な理由はもう一つある。ノルドストリームの爆破に成功すれば、ノルウェーは自国の天然ガスをヨーロッパ地域に販売できるのだ。
理解不能のミステリー
パイプラインの爆発直後、米国のメディアはこの事件を理解不能のミステリーとして報じた。
米国は、この事件を起こしたのはロシアの可能性が高いと発表したが、その証拠を提示することはできなかった。
これまで、バイデン大統領とヌーランド国務次官によるパイプラインへの攻撃的な発言を取り上げたアメリカの主要メディアはなかった。
アメリカと西側諸国は犯人はロシアだと主張し、ロシアは西側の仕業と非難する。
百歩譲ってロシアの仕業だとして、自国の主な収入源の一つであるパイプラインを自らの手で破壊することでどのような利益を得るのかは不明である。
ノルドストリーム爆発の原因
シーモア・ハッシュの調査報道によれば、爆発の原因は、米海軍のダイバーがノルドストリームパイプラインに仕掛けた爆破装置によるものとしている。
2022年6月にバルト海で開催されたBALTOPS22(NATOの合同軍事演習)をおとりに使い、イベントがおこなわれているその裏でパイプラインに爆薬を設置し、その3か月後の9月26日にノルドストリームを破壊した。
起爆に使われたのはソナーブイ
パイプラインに設置されたC4爆薬は、2022年9月26日ノルウェー海軍のP8ポセイドン哨戒機から投下されたソナーブイに反応して爆発した。
このソナーブイが発する固有の低周波を爆破装置が受信すると、タイマーが作動し、時間差をつけて爆発する仕組みになっていた。
要するに、設置からある程度の日数が経っても、あとから爆発の日時を指定できる特殊な時限爆弾のようなものだった。
海底での極秘作戦の前例
これと似たようなことは以前からもおこなわれている。1971年、アメリカはロシアの通信用の海底ケーブルを発見し、盗聴装置を設置することに成功している。
ロシア海軍がオホーツク海に埋めた海底ケーブルはロシア海軍司令部とウラジオストック本部の通信を可能にした。CIAとNSAは海軍ダイバーと改造した潜水艦、サルベージ船を使い、この海底ケーブルを発見した。
そのプロジェクトの名は「コードネーム:アイビーベルズ」と呼ばれ、その後10年間、盗聴活動は続けられた。今回の作戦は海底ケーブルが海底パイプに入れ替わっただけなのだ。
ノルドストリーム爆破の理由
パイプライン爆破の理由は、ヨーロッパにおけるロシア・エネルギー支配の元凶の破壊である。
当初からノルドストリームは米国と反ロシア派のNATO加盟国に脅威と見なされており、バイデンは、プーチンが政治的なカードとして、この天然ガスパイプラインを利用してくると懸念していた。
これによりロシアは独自の大きな収入源を得て、ドイツと西ヨーロッパ諸国はロシアからの低コストな天然ガスが無ければ立ち行かなくなるだろうと思われたからだ。
実際、このパイプラインはロシアから安価で安定した天然ガスをヨーロッパへ届け、その中継国のドイツでは工場や家庭に暖を届けるだけではなく、自国のエネルギー企業が西ヨーロッパ全域に供給することでドイツ経済にも恩恵を与えた。
また、ヨーロッパがロシアの天然ガスに依存している限り、ドイツなどがお金や武器といった支援をウクライナに出し渋ることを恐れていた。
ノルドストリーム運営企業とロシアによるエネルギー支配
運営企業のノルドストリーム2AG(Nord Stream2AG)は、プーチンの支配下にいるロシア財閥オリガルヒの傘下企業ガスプロムが主体となり設立された。
この企業の持株比率は次のようになっている。
- ガスプロム:51%
- フランス企業1社、オランダ企業2社、ドイツ企業4社:残りの49%を共有
ガスプロム社の利益はロシア政府と共有とされ、実質的には政府の子会社である。ガスと石油の収入はわずか数年でロシア年間予算の45%に達するという。
ノルドストリームに関する著名人の発言
ノルドストリームに関して各国の著名人から興味深い発言がみられた。
ポーランド元外相シコルスキー
ポーランドの元外相で現欧州議会議員ラドスワフ・シコルスキーは、ノルドストリームが爆破された翌日ツイッターに「ありがとう。アメリカ」と投稿したが、すぐに削除した。
思わず、「ありがとう」の声が出てしまったのは、次のような理由があるともっぱらの噂だ。
ノルドストリーム1、2の海底パイプラインが使えなくなるとロシアはヨーロッパへの天然ガス輸送に陸上のパイプラインを使わざるを得なくなる。
陸上のパイプラインが自国に敷設されているウクライナとポーランドは、その使用料を受け取ることになるという。
ジャーナリストのアン・アップルバウム
シコルスキー氏の妻でポーランド市民、米国のジャーナリストであるアン・アップルバウムは、公開討論会に出席した際、夫がこの投稿をツイッターから削除した理由について聞かれ、次のように答えていた。
「ただのジョークよ。ジョークだったのに誤解されたのよ」
FOXニュースの報道
バイデン政権は、この件に関して「米国は関与していないと国民を騙した」と米国ニュースメディアFOXニュースは報じている。
FOXニュースの名物キャスターであるタッカー・カールソンは、次のようにコメントしている。
「ノルドストリームの爆破にバイデン政権が関与しているのは明らかだ。ウクライナ戦争の起爆剤となったヌーランドが2022年1月、ロシアがヨーロッパにガスを送れなくするためにノルドストリームを爆破すると脅し、さらにその計画に自分が関与していると認めた」
ジョー・バイデン大統領
2022年2月7日、バイデンはホワイトハウスでドイツのオラフ・ショルツ首相と会見し、その後の記者会見で、次のような発言をした。
「ロシアが侵略した場合。ノルドストリームは存在しえない。我々がそれを終わりにするからだ」
ビクトリア・ヌーランド国務次官
バイデンの発言の2日後、ヌーランドも国務省の説明会で次のようなコメントしていた。
「ロシアがウクライナに侵攻した場合、何らかの方法でノルドストリームを止める」
また、2023年2月におこなわれた上院外交委員会の公聴会に出席したヌーランド国務次官は、テッド・クルーズ上院議員からノルドストリーム爆破事件について質問され、次のように答えている。
「私は、ノルドストリームが今や海底に沈んだただの鉄くずとなって大変満足しています。バイデン政権も満足していると思います」
ブリンケン国務長官
2022年9月の記者会見でブリンケンは西ヨーロッパの悪化するエネルギー危機について尋ねられた際、次のようなコメントを発表し、ロシアとプーチンをけん制した。
「これは、ロシアからのエネルギー依存から脱し、プーチン帝国拡大の武器であるエネルギーの兵器化を無力化する絶好のチャンスである。世界がロシアのエネルギー兵器から脱却することは今後の世界戦略にとって非常に重要な課題であるが、一方でその影響が世界中の国民に負担とならないよう出来る限りのことをしようと決意している」
米国政府広報
ホワイトハウスの広報エイドリアン・ワトソンやCIA広報のタミー・ソープは、このシーモア・ハッシュの調査報道の内容について次のようにコメントし否定した。
「こんなのはフィクションだ」
国連安全保障理事会は決議案を否決
国連安保理は2023年3月27日、ノルドストリーム爆破の調査を求めるロシアの決議案を否決した。
ノルドストリーム付近で発煙浮信号が発見される
2023年3月29日、デンマークのエネルギー庁はノルドストリームの爆発があった付近で「発煙浮信号」を引き揚げたと発表した。
この物体が発見されたのは水深73メートルの場所で物体そのものは海洋で使用される発煙浮信号だった。中身は空で危険はないとしている。
ロシアのプーチン大統領は、この物体が爆発物に信号を送信するアンテナの可能性があると専門家としての見解を述べた。
あとがき
シーモア・ハッシュに爆破事件についての情報を提供した人物は、最後にこのように語っている。