医学界でGRID(ゲイ関連免疫不全)として知られていたエイズ(後天性免疫症候群)とHIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、1983年フランスのウイルス学者リュック・モンタニエ教授らによって同定された。
この感染症もまた、これまでに発見されたものと同様に世界の人口を削減するために作られた生物兵器だとする陰謀説が存在する。
この記事では、いまだハッキリとしないエイズの起源と陰謀説についてご紹介していく。
- エイズの起源と陰謀説について
エイズの起源
エイズはいつどこで発見されたのか?
これまでは、エイズの起源は1931年にカメルーンで発見された女性だとされてきた。
しかし、最新の研究によれば、エイズ(HIV)は「1884~1924年頃」の「サハラより南にあるアフリカ」で発生した可能性が高いという説が濃厚である。
また、1959年と1960年に採取されたHIVウイルスの菌株を分析したところ、1960年のウイルスは少なくとも40年かけて進化したことが判明し、さらに59年と60年の両ウイルスの共通の祖先をたどると1908年まで遡ることが分かったという。
アメリカにおけるエイズのペイシェント・ゼロは16歳の少年だった
ロバート・レイフォードは、アメリカで最も早くエイズ(HIV)に感染したとされる人物である。
ペイシェント・ゼロやインデックス・ケースとは、最初の感染者を意味する言葉だ。
AIDSとHIVがはじめて同定されたのは、1980年代でウイルスはその頃に発生したものだと誰もが考えていた。
しかし、1969年にミズーリ州セントルイスでに住むロバート・レイフォードという16歳の少年がエイズの合併症で亡くなっていたことが判明する。
近年になり、レイフォードの検死解剖で採取していたサンプルで遡及的試験をおこなったところ死因はAIDES・HIVだと立証されたのだ。
発見が遅れた理由は、当時はまだHIVがSIV(サル免疫不全ウイルス)の変異株であるとは分かっていなかったからだという。
エイズはなぜチンパンジーから感染したのか?
エイズはチンパンジーからヒトに感染したと考えられているが、具体的にはどのような感染経路をたどったのだろうか。
専門家は、1908年のカメルーン南東の熱帯雨林がエイズの発祥の地だと考え、次のように推察している。
- ハンターが森でチンパンジーを虐殺し、血液に触れる、またはそれを食料とすることでウイルスに感染
- その後、ハンターはコンゴのレオポルドヴィル(現・キンシャサ)の街に到達
- そこで性行為を介して他の人間にウイルスを感染させた
- コンゴの診療所で注射器の使いまわしにより感染拡大していった
感染症を広めたのは植民地政策と近代医学
アフリカのチンパンジーが保有していたエイズウイルスを広めたのは、植民地政策と医学の導入だったというのが現在の定説である。
植民地政策で、アフリカの都市部には多くの建設労働者が流入すると、売春がまん延してウイルス感染の温床が作られた。
さらに、アフリカの風土病を治療するために診療所ができ、そこで注射器が使いまわしされることでHIV感染者を増やしていったのではと考えられている。
エイズの原因は男性?
当初、ウイルス学者たちはエイズウイルスについてよく知らなかっため、男性のホモセクシュアルの行為に由来する病だと誤解していた。
というのも、カルフォルニアでサブカルチャーとしてのゲイに的を絞って調査した結果、感染者が大量に発見されたためだ。
ゲイのグループにエイズが蔓延しやすいのは主に彼らの乱交と彼らの好む性行為によってできる内部の傷が原因だとされる。
また、エイズに感染していても発症していない女性が多くいたことや、この病気が免疫や体組織を破壊するアフリカで有名な「痩せる病」として知られていたことにも気づいていなかった。
エイズウイルス陰謀説
この陰謀説は、「エイズウイルスはアメリカ政府やそれを支配する勢力が開発した生物兵器である」とするものだ。
おもにアフリカにいる黒人の人口を削減するのが目的とされており、この説を裏付ける主張は以下のようになっている。
- サール社が関わっている
- 国連はワクチンを名目として、注射でエイズをばらまいた
- ロスアラモス/フォートデトリック/コールドスプリングハーバーなどの研究施設で開発
ちなみに、サール社とはかつてアメリカ合衆国に存在した薬剤、農業などを専門とした企業で1985年にはモンサント、2003年にはファイザーに買収されている。
エイズはCIAの生物兵器説
その他にも、エイズはCIAが開発した生物兵器だという説も存在する。
一部の者たちは、エイズが世界に広まったのはCIAがアフリカで戦うキューバ兵を襲うための生物兵器が原因ではないのかと考えていたようだ。
この説によれば、とある生物兵器をキューバ兵に感染させたところ、現在のエイズウイルスと呼ばれるものに突然変異し、本来の標的と地域を越えて感染が広がってしまい不測の事態におちいってしまったのだという。
日本でのエイズウイルス陰謀説
日本にもエイズウイルスに関する陰謀説が存在する。
日本におけるエイズウイルスの感染者第1号は、同性愛者の男性とされている。
しかし、実際は薬害エイズの感染者が第1号であるという事実を旧厚生省が批判を避けるために隠蔽したとする説である。
スターリンとイワノフの「ヒューマンジー創造計画」
ソ連の誇る鋼鉄の独裁者にもウソかホントか分からない都市伝説のような逸話が存在する。
1926年、ヨシフ・スターリンはロシアの動物交配の専門家イリア・イワノフをアフリカに派遣し、ヒトとチンパンジーの合成生物(ハイブリッド、キメラ)である「ヒューマンジー」の研究をおこなわせていたというのだ。
スターリンがこのような奇妙な計画を命じたのは以下の理由によるものだという。
- ヒューマンジーを奴隷のように従う兵士や頑強な労働者として利用するため
- ヒトに似た新種の生物を生み出し、ヒトの起源や進化論の間違いを証明するため
チンパンジーとヒトを異種交配させる実験
イワノフは当時フランスの植民地だった西アフリカのギニア(現・ギニア共和国)の首都コナクリに研究所をつくり、現地のアフリカ人女性を雇って、チンパンジーの精子を受精させてヒューマンジーをつくる実験に明け暮れていた。
実験台となった女性は地元の売春婦で報酬欲しさに参加していたが、実験が失敗に終わると元の生活に戻っていった。
実験がバレたイワノフは国外追放された
翌1927年、女性を使ったヒューマンジーの開発がうまく行かなかったため、今度は実験対象を現地アフリカ人男性とメスのチンパンジーの組み合わせに変更し異種交配する実験をおこなった。
しかし、このいかがわしい計画が現地フランス人の役人にバレてしまい、イワノフはすぐに国外へ追放されてしまうのだった。
イワノフはロシアに帰国すると、スターリンの故郷ジョージア(グルジア)でさまざまな実験に取り組んだが、どれも大して成果を上げることは無かった。
異種間の壁を越えたのはウイルスだった?
そんな中、世界はイワノフがアフリカに残してきた置き土産に震撼することになる。
イワノフの常軌を逸した奇怪な実験は、数百年ものあいだチンパンジーが保有していたSIV(サル免疫不全ウイルス)を異種の壁を越えてヒトに感染させることに成功したのだ。
皮肉にも、これまで越えることの出来なかった異種間の壁を飛び越えたのはウイルスだけだった。
1931年、最初の感染者とされてきた女性が西アフリカのカメルーンで発見されたが、もしかすると彼女はスターリンの「ヒューマンジー創造計画」の犠牲者だったのだろうか。