2025年11月下旬、マスコミ各社から「高市首相はトランプ大統領との電話会談において台湾有事発言で中国を刺激するなと叱責された」といったニュアンスの報道がされた。

この報道を受けてSNSでは「他国の首相を叱りつけるなんて品の無いことアメリカがするのかな?」みたいな意見も見られた。

これは大好きな高市さんをとにかく養護したい、もしくは日本は独立国であり、米国の属国であることを認めたくない気持ちから来ている言葉とも取れるけども。

結論から言えば、「叱り飛ばした」と明確に記録されているものは多くないが、「アメリカ大統領が他国首脳に対して強く叱責・激怒した」とされる有名な事例はいくつかあるんだよね。

ここでは、「アメリカ大統領による他国首脳に対する叱責、もしくはそれに近い事例」に関する10個のエピソードについて見ていこう。

①ブッシュ大統領とドイツのメルケル首相

2007年のG8サミット(ハイリゲンダム・サミット)では、地球温暖化対策の数値目標をめぐって、議長であるアンゲラ・メルケル首相とジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)の間で激しい対立があり、ブッシュが強い不満や怒りを露わにしたとされている。

具体的には、メルケルが温暖化対策への取り組みを強化するようブッシュに迫った際、ブッシュが「強い口調で反論した」、「激怒した」と報じられている。

②クリントン大統領と英国のブレア首相

1999年5月、コソボ空爆に関してイギリス側から地上軍派遣に前向きな報道が続いた後、クリントン大統領がブレア首相に対し、次のような「叱責・一喝」すような強い言葉で情報漏洩や意見の相違を報じるメディア報道を止めさせるよう求めたという。

  • 「Get your people under control. (君の周りの者たちを制御しろ)」
  • 「please get control(どうか制御してくれ)」

③ジョンソン大統領とカナダのピアソン首相

1965年、カナダのピアソン首相がベトナム戦争を公に批判した直後に米国を訪問した際、リンドン・ジョンソン大統領が会談でピアソン首相を壁に押し付けるようにして、次のように怒鳴りつけた話は有名だ。

  • 「You pissed on my rug!(俺の敷物に小便をかけやがったな!)」

これは「叱り飛ばした」どころか、暴言レベルの激怒事件として記録されている。

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④ニクソン大統領とカナダのトルドー首相

1971年から1972年にかけて、米国のリチャード・ニクソン大統領とカナダのピエール・トルドー首相(ジャスティン・トルドー首相の父)の間には、深い確執と緊張関係があった。

当時、ニクソンのおこなったドルの金交換停止(ニクソンショック)と10%の輸入課徴金政策はカナダに大打撃を与えたが、トルドーは米国への経済的、文化的な依存を脱するため「第三の選択肢」として米国以外の国々との関係を強化する外交政策を推進し始めた。

これはニクソンにとって不快な動きでしかなかったのだろう。ニクソン大統領が極秘に録音していたとされる「ニクソン・テープ」には、トルドーとの会談後のニクソンと側近との会話が記録されており、そこでニクソンはトルドーを次のように罵っていた。

  • 「pompous egghead(気取り屋のインテリ)」
  • 「asshole(最低野郎)」

その後、ニクソンの侮辱的な発言を知ったトルドーは次のようなウィットに富んだジョークで応戦したことが知られている。

  • 「I’ve been called worse things by better people.(私は今までもっと立派な人たちから、もっとひどいことを言われたことがある)」

⑤ニクソン大統領と韓国の朴正熙大統領

1970年代、ニクソン大統領と韓国の朴正煕大統領の間には「ニクソン・ドクトリン」と韓国軍のベトナムからの撤退をめぐる方針の相違などから緊張関係が生じていた。

ニクソン政権は、ベトナムからの韓国軍の撤退スケジュールや、在韓米軍の削減・撤退をめぐる協議で、朴政権側の要求や懸念を無視するかのように「一方的な通告」を行うことがあり、これが朴政権の不信感を募らせていた。

特に、ニクソンは極秘に中国との関係改善(ニクソン訪中)を進め、この外交転換が冷戦の構図を根底から揺るがす中で、朴は国際情勢の激変に当惑し、アメリカへの信頼が揺らいでいたとされている。

この時期、両国間には軍事行動の方針ではなく、安全保障体制のあり方と米国の「見放し」への懸念をめぐって、深刻な溝が存在していた。「叱責」ではないかもしれないが、ニクソンが朴政権に対して強硬な態度で接した状況は確かにあったといえる。

⑥カーター大統領とイスラエルのベギン首相

キャンプデービッドとはワシントンD.C.近郊のメリーランド州にある米大統領専用の山荘(保養地・公用別邸)である。

1978年9月、そのキャンプデービッドでイスラエルのベギン首相とエジプトのサダト大統領による和平交渉がおこなわれていた。カーター大統領は、この秘密交渉の仲介役を担った。

ベギン首相の譲歩しない強硬な姿勢のせいで交渉が行き詰まり、サダト大統領が退席をちらつかせる状況になると、痺れを切らした仲介役のカーターは合意を成立させるためベギンに強い圧力をかけた。

カーターは「合意を破棄して帰国すれば、あなたは和平の機会を潰した張本人として歴史に名を残すことになる」と非常に厳しい言葉でベギン氏を追及したとされている。

このカーターの「感情的な訴え」がベギン首相の考えを改めさせ、最終的にイスラエル議会にシナイ半島入植地の運命を委ねるという譲歩を引き出し、合意に至る突破口を開いたとされている。

⑦オバマ大統領とアフガニスタンのカルザイ大統領

2010から2013年にかけて、オバマ大統領はアフガニスタンのカルザイ大統領と汚職問題(身内への利権誘導)、民間人被害、タリバン対応をめぐり対立している。

2010年3月、オバマ大統領がアフガニスタンを訪問した際、カルザイ氏に対して「汚職を一掃しなければ米軍の支援は続けられない」と非常に厳格な態度でお説教したとされる。

一方、カルザイ氏は米国がアフガニスタンの主権を無視していると感じていて、「自分はタリバン側に寝返るかもしれない」と示唆するほどの反米的な言動を繰り返していた。

これに激怒したオバマは電話会談や直接会談において、それまでの首脳外交では見られないほどの怒りを露わにし、カルザイ氏を厳しく叱責したとされている。

前任のブッシュ大統領は、カルザイ氏と個人的に親しく、ビデオ会議を頻繁に行うなど「宥和的」な関係を築いていたが、オバマ大統領は、カルザイ氏を「信頼できないパートナー」として扱い、ダメな部下を叱るような厳しい態度で接していた。

⑧トランプ大統領と韓国の文在寅大統領

2017年から2019年にかけて、トランプ大統領が韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対して電話会談などで「叱責」に近い激しい言葉を浴びせたとされている。

トランプが「北朝鮮に対して最大限の圧力をかけるべき」と考えていたのに対し、文大統領は「対話と経済協力による平和構築」を最優先したためで、その根本的なアプローチの差がトランプの苛立ちを招いた。

2017年9月、北朝鮮が核実験を強行した直後、トランプ大統領が安倍首相の電話会談の中で、文大統領について「北朝鮮に乞食のように対話を求めている」と酷評したと報じられた。

2018年初頭、トランプ氏は文大統領との電話会談で韓国の対北朝鮮融和姿勢や米韓自由貿易協定(FTA)への不満を爆発させ、相手の話を遮って一方的に怒鳴り散らしたり、受話器を置いた後に不平を漏らしたことが度々あったという。

2019年、在韓米軍の駐留経費負担(思いやり予算)をめぐる交渉で、トランプは従来の5倍近い負担を韓国に要求した。その際、文政権の対応を「弱腰だ」と公然と批判し、交渉の場でも非常に高圧的な態度を取っていたとされている。

⑨トランプ大統領とオーストラリアのターンブル首相

2017年1月28日に行われたトランプ大統領とオーストラリアのマルコム・ターンブル首相の電話会談は「極めて不愉快」で「険悪」なものだった。

対立の最大の原因は、オバマ前政権がオーストラリアと結んでいた「難民受け入れ合意」だった。オーストラリアのオフショア収容施設(ナウル、マヌス島)にいる難民約1,250人を米国が引き受けるというもの。

「不法入国者を禁止する」という公約を掲げて当選したトランプにとって、この合意は「愚かな取引(dumb deal)」であり、自身を弱く、無能なリーダーに見せるものだとして激怒していた。トランプは以下のような極めて強い言葉をターンブル首相に浴びせたという。

  • 「今日は一日中、電話してきたが、これがダントツで最悪だ。プーチンとの電話の方がよほど愉快だった。これはバカげている」
  • 「この合意は私を(政治的に)殺すことになる」
  • 「不快で、恥ずべきものだ」

この会談の様子がメディアに漏れると、トランプは「フェイクニュースだ」とお得意の決めゼリフで否定したが、半年後に詳細な記録が流出したことで、この報道が事実だったことが証明された。

一方で、オーストラリアのターンブル首相は終始冷静に対処し、トランプをなだめつつも合意を履行するように説得を続けた。最終的にトランプは「最悪だ」と言いながらも、同盟国との約束として、この合意を尊重する形となった。

⑩トランプ大統領と安倍晋三首相

トランプ大統領と安倍晋三首相の関係については、一般的に「史上もっとも親密な日米関係(蜜月関係)」と評されている。

しかし、その裏ではトランプが貿易問題などをめぐって安倍氏を「強い言葉で追い込んだり、理不尽な要求を突きつけたりした」という事実が複数の記録で確認されている。

これは単なる一方的な「叱責」というよりは、トランプ特有の「交渉術としての圧迫」が随所に見られたということなのだろうか。

真珠湾を忘れない(I remember Pearl Harbor!)発言

2018年6月、ホワイトハウスでの首脳会談で、貿易赤字に不満を募らせたトランプが安倍首相に対して非常に緊迫した場面で放ったとされる言葉だ。

「2,500万人のメキシコ人」発言

2018年、カナダで開催されたG7サミット(シャルルボワ・サミット)において、移民問題の議論中にトランプが安倍首相に放ったとされる皮肉だ。

「シンゾウ、君の所にはこの問題はないのだろうが、私がメキシコ人を2,500万人送れば、君はすぐに退陣することになるぞ」と言い放ったとされる。

日米安保条約への「不公平」発言

トランプは電話会談や公式の場で、繰り返し日米安保条約を「不公平だ」と批判してきた。

「米国が攻撃されても日本はソニーのテレビでそれを見ているだけだ」といった極端な表現で安倍氏を困惑させ、防衛予算の増額や米国製兵器の購入を強く迫った。

安倍元首相も、後に出版された『安倍晋三回顧録』でトランプとのやり取りを振り返っている。トランプとの電話会談は1時間を超えることがザラで、その大半がゴルフの話や他国の首脳の悪口、あるいは貿易への愚痴だった。

あとがき

「叱責」という言葉の意味するところが、上司が部下を怒鳴りつけるようなニュアンスであれば、それとは少し違うのかも知れない。しかし、「激しい言葉で圧力をかけ、感情を爆発させて無理難題を突きつける」という意味では事実に極めて近いと言える。

「他国の首脳を叱責・激怒するような品性のないことをアメリカがするのか?」と問われれば、残念だけど、そのような事例はこれまで幾つもあったと日本に巣食うエセ保守、エセ愛国者の諸君に僕は伝えなければならない。

直近の高市さんとトランプ氏の件については、11月の日米首脳電話会談で「米国と中国が上手くやろうとしているのに邪魔しないでくれ」とトランプ氏に高市さんが厳しく釘を刺され会談後かなり落ち込んでいた、という政府関係者の話が漏れ聞こえている。

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