日本の企業は、一度採用した人材を簡単に首にすることができない。
そのため、リストラ対象の社員を会社都合ではなく、自己都合での退職へと追い込む手法がこれまで取られてきた。
それが「追い出し部屋」である。
追い出し部屋とは
追い出し部屋とは、会社が辞めさせたい社員に対して圧力をかけて自主退職をうながすために存在する部署や施設である。
日本では1990年代以降、業績の悪化した大手企業に存在するようになった。
目的
この部屋が存在する目的は人員削減によるコストカットである。企業が使えないと判断した社員にいつまでもタダ飯を食わせたくないので行われている。
ダラダラと定年まで居座られてムダな退職金も払いたくないし、かといって無理矢理辞めさせた後に訴えられて、裁判で負けるようなことがあれば損害賠償というリスクが発生し、いろいろと面倒くさいのだ。
企業にとっては自己都合退職、つまり社員が自分から辞めてくれることが一番リスクも少なく、都合が良いのだ。
名称
この「追い出し部屋」、企業によって名称や部署が違うため、内部の者には認知されていても、外部からは分からないようになっているのがほととんどである。
追い出し部屋には、以下のようないろんな名称が使われている。
- 業務センター(東芝エネルギーシステムズ)
- キャリア開発室(ソニー)
- 第二営業部(日の出証券)
- パソナルーム(セガ・エンタープライゼス)
- プロジェクト支援センター(NEC)
- サポートチーム(三越伊勢丹)
- 日勤教育(JR)
- 訓練道場(郵便局)
手法
退職させたい社員に対し、以下のような揺さぶりをかけ社内に危機感を煽り、早く別の仕事を見つけた方が良いという意識を芽生えさせる。
- 労働時間の変更・延長短縮
- 一時帰休・自宅待機
- 年俸制導入による賃下げ
その一方で、退職されては困る社員には事前に根回ししてリストラ候補者グループと差別化を図る。
そして、以下のような者たちには「仕事が無かったり」、「単純労働しかない部署」、「仕事を与えず無意味なことをさせる部署」に異動させ、もう自分には自主退職しか道は残されていないのだと認識させる。
- 会社が提案する希望退職に応じない社員
- ノルマが達成出来ない者
- 怪我・病気・高齢化で戦力外となった社員
追い出し部屋の特徴
肩を叩かれても出て行かぬ者は、いろんな意味で不自然な部屋に送り込まれ、人道を無視したかのような理不尽な目に遭遇する。
- 名刺がない
- 部署が社内の内線番号表に載ってない
- 再教育と称して業務とは無関係な仕事が与えられる(職場の掃除・草むしり)
- ただひたすら上層部に罵倒され続ける
- 送受信したメールはすべて人事部に監視される
- パソコンは社内ネットワークから遮断され今まで所属していた部署の情報も見られなくなる
- 仕事がない部署でも勝手な外出、居眠りなどをチェックするための監視カメラが設置されている
- 昔の同僚と廊下などですれ違っても、関わったら自分も同じ目に遭うと避けられ孤立する
追い出し部屋が楽しいから居座る?
この世の中には、仕事というものに対して意欲がない人間もいる。大した仕事が無くても金さえ貰えればいいという人間にとっては窓際族や追い出し部屋は天国になりえるのだとか。
そんな追い出し部屋だが以下のような業務が待っているという。
- 単純作業
- 達成できないノルマを与えられる
- 転職活動のようなことをさせられる
①単純作業
誰でもできような単純作業をさせて、働く意欲を削ごうとする。
これまでやってきた仕事とは畑違いのような仕事を繰り返させることで自主退職へ導く。
専門性のある仕事や管理職をしていた人にとっては苦痛度マックス。
②達成できないノルマ
一日100件の飛び込み営業のノルマを課せられたり、どう見ても達成できないノルマを与え、圧力をかける。
ノルマが達成できなければ、上司から怒鳴られ続け、長時間の残業やパワハラのような圧を掛けられるなど精神的にキツイのは言うまでもない。
③転職活動のようなことをさせられる
人材センターなどに出向させられ、頻繁にキャリア面談があったり、定期的に適性診断などを受けさせられるなど追い出し部屋によっては、転職活動のような事をさせられるというのもある。
「今後のスキルアップのため」や「業務の幅を広げるため」など本人のキャリアアップが目的であるかのように装っているが、その実態は退職勧奨というものになっている。
しかし、在籍期間が長くなればなるほど、給与が下がるようになっていたりして、居座りづらくする仕組みがある。
追い出し部屋 セガの場合
テレビゲームメーカーのセガもかつて、社員に対して闇の深い対応をしていた時期がある。それは追い出し部屋「パソナルーム」だ。
パソナと聞くと筆者同様に「日本の労働環境をぶっ壊したとされるロクでもない何か」が思い浮かべる人もいると思うが、それとは関係ないらしい。
その部屋の中で何かをしようものならマイクから「動くな!」と罵声が飛んでくるらしい。
- 外には繋がらない内線電話が1つある
- 私物の持ち込みは禁止
- 外出には人事部の許可が必要
- 窓のない地下室で空調がなく室温は28度を超える
- 室内のカメラとマイクで常時監視されている
- 障害者雇用で入社した人工透析患者の従業員も送り込まれた
追い出し部屋 ソニーの場合
ソニーの追い出し部屋「キャリア開発室」。
そこには、リストラの対象者が集められ、社内失業状態にして退職金の話と転職相談を組み合わせて「退職に追い込む仕組み」が作られていた。
- これまで送られた者は3000人~4000人(ソニーのリストラ暴露本によると)
- 朝9時に出勤し自分の席についてもやるべき業務はない
- コネで社内の受け入れ先を見つけるか、早期退職して転職するか、何を言われても居座り続けるしかない
- リストラ部屋は外から見ると社員のスキルアップやキャリアップを目指すための部署にしか見えないため、基本的に何をやってもよい
- 多くの者は「英会話の学習」や「パソコンソフトの習熟」、「ビジネス書を読む」などして過ごしていた
言葉は悪いが遊んでいてもお金がもらえるとなれば、人によっては居心地がよく、長く居座ってしまう者もいたのかも知れない。
あとがき
あるエリートビジネスマンは一流大学を卒業すると、誰もがうらやむ一流企業に入る。彼は大きなプロジェクトを成功させ、これまで会社に貢献してきたと自負していた。
ところが、大不況になり状況は一変する。畑違いの部署へ飛ばされ、上司のしごきに困惑する日々。やがて使えない奴のレッテルを貼られるようになる。
やがて、彼が送られたのは会社の地下の隅っこにある小さな部屋だった。部屋には窓が無く、天井には蛍光灯、四方は白い壁で囲まれていて、正面の壁には丸い壁掛け時計があった。それ以外は1人分の机とイスがあるだけだ。
毎朝、出社するとタイムカードを押し、私物の持ち込みが禁じられているためドアの脇にある棚にバッグなどの荷物を置いて部屋に入る。
天井の隅に設置されたカメラで自分の行動のすべてが監視されている。退勤時間は17時。時間が来るまでそこで、ただじっとしているのが彼の仕事だった。
壁掛け時計の秒針の音が冷たく響いている。妻に本当のことが言えず、自殺を考えたこともあった。結局、数ヶ月ものあいだ彼は白い壁をただ見つめ続けていた。
この仕打ちの意味を最初から分かってはいたが、どうしても認めたくなかった。自分が会社から捨てられたのだということを。