【韓国政治と陰謀論⑤】李明博大統領と「狂牛病」陰謀論
第17代大統領、李明博(任期:2008-2013)の治世には「狂牛病陰謀論」が広まった。
李明博大統領と「狂牛病」陰謀論
1988年の盧泰愚政権以降、共産圏国家との関係改善や韓国、北朝鮮の国連同時加入などもあり、韓国では共産主義や北朝鮮の脅威を利用した陰謀論が語られることも無くなっていった。
ところが今度は反政権運動をおこなう人々が政権を揺さぶるために陰謀論を利用するようになった。そのきっかけとなったのが、2008年に李明博政権下で起こった「狂牛病デモ」である。
この「狂牛病陰謀論」は「狂牛病デモ」から飛び火して広まったもので、当初「狂牛病デモ」は米国産牛肉に反対するデモだったんだけど、次第に反政権デモへと変化していった。
- 自力で歩行できない牛が登場し、狂牛病に罹患した牛であると紹介された
- 韓国人が狂牛病に感染した牛を摂取すると「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(ヒト狂牛病)」の発症率が94%に達する
テレビ番組が報じた上記のような狂牛病についての誤報に尾ひれが付き、「政府がアメリカから危険な牛肉を輸入しようとしている」という言説が広まり、大規模な反政権運動にまで発展した。
李明博政権はFTA(自由貿易協定)を重視して、米国産牛肉の輸入再開を推進したが、アメリカの利権のために韓国の食の安全を脅かしたと批判された。
のちに狂牛病デモにまつわる言説はデマだと判明するが、さらに次のような陰謀論が拡散され、大規模なデモを誘発した。
- 米国産牛肉を食べると脳がスポンジになって即死する
- 李明博政権はアメリカの要求に屈し、狂牛病を隠蔽してアメリカ産牛肉を輸入しようとしている
- 牛脂の成分が入った口紅を塗った唇でキスをすると狂牛病に感染する
ろうそくデモ
2008年6月、デモは頂点に達し、夜間の都心部に大群衆が押し寄せた。
集まった人々はいつの間にか火を灯した「ろうそく」を手に政権退陣を叫んでいた。
このデモは「ろうそくデモ」と呼ばれ、「反政権運動の象徴」となり、現在でも韓国の民衆に受け継がれている。
参考:『社会分断と陰謀論 虚偽情報があふれる時代の解毒剤』/文芸社

