不思議な話

【金子勇とWinny事件】天才とプログラム馬鹿は紙一重

いつの時代もさまざまなジャンルで類い稀な才能を持つ者たちを「天才」とか「怪物」とか「紙一重」とか言ったりするが、「Winny(ウィニー)事件」主人公・金子勇氏も、そこに名を連ねる人物の一人ではないかと思う。

ファイル共有ソフトWinnyの作者・金子を逮捕することは、「包丁を凶器とした殺人事件が起きた時、犯人だけでなく包丁を作った人物も逮捕されるのか」という話に例えられている。

時に「天才」や「時代が生んだ怪物」、「プログラミング馬鹿」と称される金子勇とはどんな人物だったのか。彼の名を世に知らしめた「Winny事件」とは何だったのか?

金子勇の死因

2013年7月6日、金子氏は42歳で死去した。死因は「急性心筋梗塞」。裁判による拘束から解放された金子が自分のために使えた時間はわずか数ヶ月だけだった。

Winny事件で金子の弁護を担当した壇俊光(だんとしみつ)氏は「金子が危篤」の連絡を受け病院に駆け付けた。

その時、壇氏が目にしたのは多くの機器に囲まれ、大量の点滴が繋がれた金子の姿だった。

金子勇はなぜ捕まった?

Winnyが登場するまでは同じくP2P型のファイル共有ソフト「WinMX」が普及し、著作権法違反で逮捕者が出るなどファイル共有ネットワークは著作権侵害の温床となっていた。

その後、より匿名性が強化されたWinnyに乗り換える利用者が増加し、2003年11月27日、Winnyネットワーク上で「映画を公開した群馬県の男性B」「ゲームを公開した愛媛県の少年A」が逮捕された。

この事件の影響で2004年5月10日、金子は「著作権法違反ほう助」の疑いで京都府警に逮捕され、5月31日に京都地検に起訴された。

裁判

無罪判決

2009年10月8日午前10時、場所は大阪高等裁判所。「主文 原判決を破棄する。被告人は無罪」と裁判長により判決が読み上げられ、金子勇の無罪が確定した。

この判決は技術開発へ配慮した意欲的な判決理由だったとされるが、金子を無罪に導いたのは彼が純粋でひたむきなプログラム馬鹿だったからだと壇氏は述べている。

京都府警がおこなった金子に対する最初の取り調べは違法であるとし、その時の調書は証拠から除外されていた。

検察が上告

無罪判決後の2009年10月21日、検察が上告を決定。翌年の2010年3月23日、検察は全文116ページの上告趣意書を提出した。

趣意書には「誰か1人でも悪いことをするかもしれないと認識していれば、幇助犯が成立する」と主張されていた。本裁判において検察官が幇助の解釈を明らかにしたのはこれが初めてだという。

弁護人の壇氏は上告書のボリュームに何が何でも金子を罪に陥れようとする組織のメンツと狂気を感じたという。

最高裁は上告を棄却

2010年6月30日、弁護側は検察の上告に反論すべく100ページを超える答弁書を提出した。

それから一年半、最高裁からは何の音沙汰もなかったが、2011年12月20日「Winny事件上告棄却」のニュースが流れ、Winny事件に終止符が打たれた。

Winnyとは何だったのか?

Winnyは中央のサーバーを介さず、Winnyをインストールしたパソコン同士が相互接続するP2P(ピアツーピア)技術を利用したファイル共有ソフトである。

Winnyは匿名性の高さで注目を集め、Winnyネットワーク上に違法アップロードされた映画や音楽、ゲームなどの著作物が無料で手に入るため利用者が急増した。

また、数千億円におよぶ著作権侵害があったとされ、猥褻な画像や児童ポルノの流通、コンピューターウイルスの蔓延など、さまざまな犯罪の温床として警察の捜査対象となった。

利用者のほとんどは違法アップロード、ダウンロードを目的にしており、「Winnyを合法的に使うことは困難である」というのが金子氏を罪に問いたい者たちの主張である。

Winnyはなぜなくなったのか?

Winnyの問題点はいくつかあるが、Winnyがなくなった理由として考えられるものは以下のとおりである。

  • 違法なファイルのやり取りとそれに伴うコンピューターウイルス蔓延
  • ネットワークを管理するサーバもないので誤って流失させたファイルを削除できない
  • 開発者が死去している

また、自分が欲しいソフトがあっても、それを持っている利用者がWinny上にアップロードしなければ手に入らない。

つまり、誰かがアップロードするまで待たなければならないし、絶対にアップロードされるとも限らない。

だが、現在ではWinnyが無くても欲しいソフトやコンテンツのほとんどはインターネット上を探せば普通に手に入るようになった。

さらに、月額の各種配信サービスも充実しており、自分のパソコンにデータを所有する必要性すらなくなってきている。

金子勇はビットコインの作者サトシナカモトなのか?

ビットコインとは、ネット上に流通している実体を持たないデジタル通貨の代名詞とされる暗号通貨(仮想通貨)である。

その作者とされる「サトシナカモト」の正体については諸説あるが、いまだ判明していない。

ビットコインにはWinnyにも使われていたP2P(ピアツーピア)技術が使われており、「サトシナカモトの正体は金子勇ではないのか?」という説もあるようだ。

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金子勇とひろゆきの関係

ネット掲示板2ちゃんねるの創始者「ひろゆき」こと西村博之氏も金子と遭遇している。

金子とひろゆきとの最初で最後の対面は、2004年10月初旬、新宿アルタ近くの喫茶店ルノワールであった。

金子の弁護を担当する壇俊光氏が、検察が裁判で尋問予定の2ちゃんねるで使われている「ハッシュ」や「ID」について直接ひろゆきに会って確認したかったからだ。

壇氏がひろゆきに会うと伝えると金子も同席したいと言い、「この奇妙な会談」が実現したようだ。

IDとハッシュについての話は10分程度で終了したが、話はそこで終わらない。当時2ちゃんねるユーザーでもあった金子はひろゆきに興味津々だったからだ。

しばらくの間、珍しくおしゃべりモード全開の金子のトークでさすがのひろゆきもタジタジだったそうである。

ひろゆき氏は、映画『Winny』公開に際しコメントを寄せるだけでなく、自著『ざんねんなインターネット 日本をダメにした「ネット炎上」10年史』において金子勇とWinny事件について語っている。

金子勇と2ちゃんねる

金子はネット掲示板「2ちゃんねる」「47氏」と呼ばれる有名人だった。

金子がWinnyの開発宣言をしたのが2ちゃんねるのダウンロード板のとあるスレッドの「47番目の書き込み」だったからだ。

そして、47氏こと金子勇の裁判費用の寄付の呼びかけがおこなわれたのも2ちゃんねるであり、最終的に寄付金は1600万を超えたという。

金子勇と堀江貴文の関係

映画『Winny』は『ホリエモン万博』で製作発表をおこなった映画である。面識はないが堀江氏は自身のYouTube番組内でも、たびたびWinny事件と金子勇について言及している。

Winny事件が映画になった。実は随分と前に終了してしまった『ホリエモン万博』にて制作発表が行われた映画でもある。
金子勇氏とは面識はないが、Winnyは当時かなり先進的だったP2Pのファイル交換ソフトである。グローバルではNapsterやGnutellaあたりが有名だったが、国内では圧倒的に支持されていたように思う。

実業家 堀江貴文

出典:映画『Winny』公式サイト

Winny事件に関わった京都府警と検察官と裁判官のその後

7年半の戦いから解放された金子には僅かばかりの刑事補償がされたが、それは彼が失った日々に見合うものではなく、警察や検察からは謝罪の一言も無かったという。

違法な取り調べを指摘された京都府警サイバー犯罪対策室の警部補は、定年後にノンキャリアの憧れ大手電機メーカーに部長待遇で天下った。彼は「金子は悪い奴だ」と吹聴していたそうだ。

金子を起訴した検事は、その後、大阪の特捜検事として忖度捜査をしているという話だ。

一審で有罪判決を出した裁判官は順調に昇進していたが、最高裁決定の翌年に退官したという。もっとも退官とWinny裁判の結果に関係があるのかは分からない。

あとがき

国家にとっての損失とは何か?それは、この国の様々な分野において優秀な人材を失うことである。「プログラム馬鹿」である金子勇も間違いなくその一人だった。

警察は違法な捜査で彼を立件しようとした。しかしWinny事件の場合、「怪物を倒せるのは怪物だけ」というような、捜査する側が卑怯な手法を使っても、それが正当化されてしまう必要悪は当てはまらない。

金子勇は確かに怪物だった。だが、それはもし彼が生きていたら日本がIT技術を足掛かりに世界経済の中心に再び躍り出る可能性もあったのではないか、という一点においてである。

出典:壇俊光著/Winny-天才プログラマー金子勇との7年半

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